受験生のストレスと受験うつ

「文章を読んでも、頭に入ってこない」
「授業に身が入らず、時間だけが過ぎていく」
「覚えたはずのことが出てこない」
「周りの音や気配が気になって、勉強に集中できない」

多くの受験生にとって、受験は非常に大きなストレスです。
特に難関といわれる大学や学部への進学を志望している場合には、ストレスはより大きなものになることでしょう。失敗できない動機や理由の大きさに比例して、ストレスも大きくなります。
受験のように長期間持続するストレスは、うつ病などの精神疾患のリスクを増大させます。

このページでは、受験生を中心とした、主に10代の中学生・高校生くらいの青少年の、ストレスで生じる不都合や、その対処方法について解説します。保護者の方もぜひご一読ください。

ストレスを抱え込みやすい青少年

受験生は受験に限らず多様なストレスにさらされますが、やはりこの時期の最も大きな悩みごとは、勉強や進路に関することといえるでしょう。

児童・生徒の悩みごと

厚生労働省の調査によると、小学校5~6年生の43.8%、中学生の58.5%、高校生等(「高校生」「各種学校・専修学校・職業訓練校の生徒」の合計)の62.3%が、何らかの不安や悩みを抱えていると答えています(図1)。

悩みの内訳をみると、「勉強や進路」を筆頭に、「顔や体形」「性格や癖」「友達」などが上位を占めています。特に「勉強や進路」は、小学生で半数、中高生では約85%と、多くの児童・生徒に共通する悩みであることが分かります。

受験前後の年齢層は、このように「勉強や進路」をはじめとした、さまざまなストレスに悩まされる時期です。

進路選択におけるストレス

全国高等学校PTA連合会と株式会社リクルートによる「全国の高校2年生とその保護者」を対象とした「高校生と保護者の進路に関する意識調査」の合同調査結果では、「進路選択についての気がかり」として、2021年は55.4%が「学力が足りないかもしれない」という不安をあげています。2017年と2019年の同様の調査でも、それぞれ58.7%、62.6%と半数以上が同じ不安をあげています(図2)。
2~3位の「やりたいことが見つからない、わからない」「自分に合っているものがわからない」がそれぞれ35%前後であることを考えると、この年齢の子供たちにとって学力不足がいかに大きな不安であるかが分かります。

受験うつとは

《受験うつ》とは、受験生の成績不良などを招く、うつ病やメンタル不調を指す言葉です。医学的な定義ではありませんので、全ての受験うつが実際にうつ病と診断される状態とは限りません。

大学受験は、過酷なストレスが長期にわたって続きます。合格できないかもしれない、努力が実らないかもしれないという不安は、多くの子供たちにとって、これまでの人生でも最大級のストレスです。こうしたストレス環境に身を置き続けることで、実際にうつ病を発症してしまう受験生は少なくありません。

受験うつの症状

以下のような状態が出てきた場合は、受験うつの可能性があります。

  • 文章を読んでも頭に入ってこない
  • 授業に身が入らず、時間だけが過ぎる
  • 覚えたはずのことが出てこない
  • 周りの音や気配が気になって、勉強に集中できない

家族なども気付きやすい、本人だけではなく外からも観察しやすい症状もあります。

  • 勉強時間の割に成績が伸びていない
  • 模擬試験の成績が急激に下がった
  • 志望校は決まっているのに、やる気が見えない
  • やらなきゃと口では言うが、勉強している様子が無い
  • 夜更かしや寝坊が増えた
  • お風呂に入らなくなった
  • イライラし、ささいなことに声を荒げる
  • 頭痛や腹痛、肩こりなど身体の不調がある
  • 何度も体調不良(微熱や軽い風邪)になる

これらの症状がいくつも、数週間以上続いているような場合は本格的なうつ病にかかっている可能性があります。

かつて、子供はうつ病と無縁であると考えられていましたが、今日では子供もうつ病にかかり得ることが認知されるようになりました。うつ病の新規発症率は、小学生では大人の4分の1程度ですが、12歳以降には大人と大差ないレベルにまで急上昇することが明らかになっています。
児童・思春期のうつ病は成人期とは異なった症状の現れ方をすることも多く、気付かれないままになっていることも少なくありません。

児童・思春期のうつ病の特徴

一般に、うつ病は元気を失ってふさぎ込んでいるイメージで知られています。
もちろん、子供にもそのような症状が現れることもありますが、子供のうつ病ではイライラして怒りっぽい部分が目立つことがよくあります。また、食べることが抑えられなかったり(過食)、いくら寝ても寝足りなかったり(過眠)、頭痛や腹痛を訴えたりと、身体症状が前面に出ることもよくあります。また、幻聴などの精神病症状をともなうこともあります。
学校に行かない、勉強をしなくなる、暴れるなどの行動面に問題が現れることもあります。

このように、子供のうつ病では従来の「定型的」なうつ病とは異なる「非定型的」な症状が目立ちます。
以下のセルフチェックは受験うつ専用ではありませんが、1つの手掛かりとしてご活用ください。

うつ病は早期発見・早期対処が重要です。心配なようでしたら、セルフチェックの結果に関係なく、ご相談ください。

児童・思春期のうつ病の治療

児童・思春期のうつ病治療としては、精神療法・薬物療法・TMS治療などがあげられます。

心理教育・精神療法

児童・思春期のうつ病治療では、心理教育などの《心理療法・精神療法》が重視されます。また、大人のうつ病治療時以上に、家族を含めた治療がより重要視されます。

薬物療法

成人期のうつ病治療では、抗うつ薬を中心とした《薬物療法》が主流です。しかし、児童・思春期への抗うつ薬の効果と適用については限定されます。
成人には有効な抗うつ薬が、児童・思春期には効果が認められないことが多いこと、治療の長期化が受験や学校生活の妨げになることに加え、特徴的な副作用が出やすいためです。
特徴的な副作用としては、不安・焦燥感・攻撃性や衝動性などが高まる《賦活症候群(アクティベーション・シンドローム)》、日中の眠気などがあげられ、受験生には特に影響が大きいといえるでしょう。

経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)

《経頭蓋磁気刺激治療》とは、磁気による誘導電流で脳の特定部位を刺激し、うつ症状の改善をはかる治療法です。省略して《TMS治療(磁気刺激治療)》と呼ばれます。うつ病治療としては「治療期間が短い」ことと「副作用がほとんど無い」ことが特徴です。
また、TMS治療は認知機能への悪影響がほとんど認められていません。短期間で日常に復帰できる可能性とあわせて、受験生の治療には最適であると考えています。
当院では、受験生本人と保護者に対しメリットやデメリットを十分に説明・比較検討した上で、慎重に実施するようにしています。

ストレスとの付き合い方

長い受験生活のストレスに負けないためには、日頃からストレスと上手に付き合っていく必要があります。規則正しい日常生活や、毎日を楽しく過ごすことは、ストレスとうまく付き合う上で重要です。

睡眠の改善

規則正しい生活習慣の基本は睡眠のコントロールです。
10代の若者は一晩に8~10時間くらいの睡眠が必要であるといわれます。日中に居眠りしているようなら、そもそも睡眠時間が足りていない可能性があります。
記憶の整理と定着は睡眠中に行われていると考えられています。いくら勉強しても、十分な睡眠をとらなければ効率的には記憶できません。

身体を動かす

青少年は、体育の授業や部活動など、身体を動かす機会が大人よりも多いと思います。ストレスの解消という目的で行う場合は、突発的な激しい運動ではなく、長期的、習慣的な運動を心がけましょう。
適度に運動し軽く疲労することで、夜にぐっすり眠れる上、記録力・思考力の改善にも役立ちます。運動習慣がない場合は、まずは近所の散歩から始めましょう。

食事と水分補給

栄養バランスのとれた食事を、規則正しくとりましょう。エネルギー補給という意味だけではなく、決まった時間の食事が、体のリズムを整えてくれます。
特に朝食は重要です。午前中の授業や勉強に備えるためにも、炭水化物を主食にした朝食を、早起きしてしっかりとりましょう。間食自体を断つ必要はありませんが、夜間の間食は控えましょう。
成長期に十分な食事をとることは、心身の成長のためにもとても大切なことです。

リラックスできる時間を作る

ゆっくりお風呂に入ったり、読書をしたり、音楽を聴いたり、お気に入りの香りをかいだり、自然に触れたりと、リラックスした楽しい時間を過ごすのは、ストレスの代表的な解消法です。マッサージやストレッチなども効果的です。
集中することに疲れたときは、無理をせずに気分転換することも大切なことです。

相談する

普段からストレスをためないようにいろいろな努力をしていても、どうしてもストレスがたまってしまうのは仕方がないことです。
しかし、イライラし気分が不安定だったり、勉強に集中できなくなったり、覚えたはずのことが出てこなかったりなど、いろいろな異変を感じたときは、一人で悩まずに周囲に相談してください。話を聞いてもらうだけでも気分が落ち着くこともあります。
それでも症状が何週間も続くようなら、早めに精神科・心療内科を受診することをおすすめします。

当院は受験うつにお悩みの方向けに「親子のための受験うつ相談」をご用意しております。

まとめ

多くの受験生にとって、受験はとても大きなストレスです。
特に大学受験で抱えるストレスは大きく、うつ病を発症してしまう受験生は少なくありません。

児童・思春期のうつ病では、イライラして怒りっぽい部分が目立ち、過食や過眠、頭痛や腹痛などの身体症状が前面に出ることも多く、学校に行かないなどの行動面に問題が出ることもあります。これらの症状は、落ち込んで元気がない従来のうつ病のイメージと異なる点も多く、子供のうつ病が見逃されやすい理由にもなっています。

そもそも受験うつにならないためには、日頃からストレスとうまく折り合いをつける必要があります。
規則正しい日常生活を送り、ストレスが強いようなら周囲に相談するなどして、早めに対処することも大切です。

児童・思春期のうつ病治療では、薬物療法は副作用の関係で慎重に行う必要もあるため、心理教育などの精神療法が重視される傾向が強いです。TMS治療は、治療期間が短く副作用がほとんど無いことから、受験生の治療にはメリットの多い治療法です。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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