『リストカット』に悩むご家族の方へ
リストカットは最近の若い人々の間で一般的に「リスカ」と呼ばれている自傷行為であり、多く発生していることが社会問題になっています。
手首(リスト)を自分で刃物など鋭利なものを使って傷つけるタイプの自傷行為です。使用道具はカッターナイフ・カミソリ・包丁などが主にあげられます。手首だけではなく腕を傷つけるアームカット、脚を傷つけるレッグカット、顔を傷つけるフェイスカットなど、さまざまな部位の皮膚に自傷行為が見られます。
自分自身の身体は本来大事なものですから、自傷行為によって自分を傷つける行為は、とてもショッキングであり周囲の人は混乱してしまいます。
また自傷行為を行う本人も、なぜそのような自傷行為をするのかうまく周りに伝えることができません。ここでは、リストカットへの理解と周囲の対応について解説していきます。
リストカットとは
リストカットは自身の手首を刃物などによって傷つけ、意図的に苦しみを生じさせる行為です。自殺するためにおこなわれるものではないと言われることがありますが、自殺との関係性も指摘されていますので注意が必要です。
なかなか周りにいる者には理解しがたい行為ですが、本人にとっては助けを求めているサインですから、早く気付いて対処することが大事です。
ご自身の状態を理解していますか?
うつ病を発症すると、仕事や家族、家業など、生活に支障をきたすようになり、我慢し続けた分、回復にも時間がかかります。
そのため早期発見がとても重要になります。
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リストカットとは~その症状の特徴~
リストカットは、特に10代の女性に多い行為であると言われており、多く発生していることが社会問題にもなっています。
他人には気付かれないように1人きりの部屋などで行われることが多く、衣類で隠せるような部位や目立たない部位を傷つけることから、家族であっても気付くことができないことも少なくありません。
また仲のよい友人などにも告白しない傾向にありますから、気付いたときにはかなり多くの傷跡があるということもあります。
リストカットに至るプロセスとしては、小学生くらいに鉛筆やコンパスを手や腕にちくちく刺したり、しきりに自分の爪を噛んだり、髪の毛を抜いたりするような行為から始まると報告されています。
「辛いことから逃げ出したい」という精神状態によって生じる行動であり、人間関係のトラブルが引き金となっていることが多くあります。
リストカット自体は自殺に結びつく行為ではないと言われることが多いですが、自殺リスクとの関連性は深く、諸外国での研究においては自傷行為をする人の自殺リスクは50~100倍あるとも報告されています。
なぜリストカットをしてしまうのか
リストカットをしてしまう理由にはさまざまあり、かなり根の深いものからファッションとして行うものまで存在します。
リストカットをしてしまう多くの理由は「辛いことから逃げ出したい」「死んでしまっていなくなりたい」といった強いストレスです。
いじめや仲間はずれなど対人関係のトラブルが大きくなることや、恥ずかしい思いをしたことや悔しい思いが引き金となることもあります。
他人に助けを求めたり、苦しみを打ち明けることが苦手な人が多く、他人に迷惑をかけずに自分だけで解決しようとして行為に至ってしまうのです。
また自分自身のことを「価値のない人間」「いなくてもいい」と考えて、自分自身に痛みを与えることで存在を見出しているということもあります。このようなケースは家庭環境が引き金になっていることも少なくなく、両親に愛されて育てられなかったという思いを持っていることがあります。
このようなケースでは発見しづらく、打ち明けることができる仲の良い友人たちからの情報が頼りになります。
ストレスを解消し「生きるために行う」
リストカットにも注意が必要
やり場のないストレスを解消するためにリストカットする、むしろ「生きるために行う」という意味も存在します。
リストカットには一種の自己治癒という側面があるのです。
では、なぜストレス解消に「自分の手首」を用いるのかというと、そこには「他者に迷惑をかけてはいけない」という気持ちが隠れているからです。
「構ってほしいアピール」や「注目されたいだけ」と考えている人は少なくありませんが、そう簡単に片づけていい問題ではありません。
リストカットの多くは、他者配慮的な気持ちから行われているからです。
周囲の人に自分の苦しみを表現し、助けを求めることが不得意であるという特性もあります。また、感情が激しく動揺しやすいという特性が認められることもしばしばあります。
自傷行為の多くは、この激しい感情に押し流されて生じたものと見ることができます。
「行き場のないストレス」を解決するために、何とか自分だけで完結させるためにリストカットという方法を選んでいることもあります。
そのためエスカレートすることもあり、繰り返し行うことで「より深く」「より多く」なっていく傾向にあります。手首だけだったものが、脚や顔などに発展することもあります。
その中で「死にたい」という気持ちが強くなることもありますから注意が必要です。
リストカットする人の特徴
特にリストカットする人の感情には、次の特徴が見られています。大切な人の苦しみに気付くきっかけにもなるポイントです。
- 周囲に認められていないと考えている
- 自分にはできない・無理と思いやすい
- 自分のことが嫌いである
- 周りの人に対して嫉妬深い
- 新しい物事への関心がない
- 過去のことをいつまでもくよくよする
- 周りのことが気になりすぎる
自殺予防総合センターが行った調査において養護教諭271名に対して、「リストカットなどの自傷する生徒に対応した経験」をヒアリングしたところ、高校では98.4%、中学では99.0%の先生に対応経験があったことが分かっています。
さらに最近一年間で対応した生徒の人数は、5人未満が最も多く77.4%、5~10名は15.1%となっています。
若年者の1割程度は生涯にリストカットなどの自傷行為を経験していることが分かっており、学校ではかなり深刻な問題となっています。
リストカットを理解する
リストカットは、ストレスでいっぱいになった心のガス抜きを行うための行為です。リストカットすることによって「気分が落ち着く」「心が穏やかになる」「辛さが緩和される」という体験をしている人が多いからです。
ただしストレスの原因となっている課題に対しては改善されていませんから、リストカットが根本的なストレス解消法にはならないということも理解しておかねばなりません。
リストカットがしたくなってしまう…
辛い思いや苦しい体験、怒りなどによってストレスが積み重なってしまうと、リストカットしたくなることがあります。
これはリストカットによって安堵感を感じることができるからです。
実際にリストカットしている人の脳波を調べてみると、リストカットした直後には脳内物質が分泌されることが分かっています。この脳内物質の作用によって、安堵感や開放感を感じることができるのです。
1人で誰にも苦しみを打ち明けられずにいると、気持ちの切り替えの方法がこれしかないと考えてしまいます。その結果、リストカットに依存してしまいます。
確かに心の苦しみはリストカットによって一時的に解消されるかもしれませんが、これが根本的な解決にはなっていません。リストカットから抜け出すには、あなたの周囲にいる信頼できる家族や友人などに助けを求めることが必要です。
身近な人のリストカットに気付いたら
子どもや仲の良い友人がリストカットしている場合は、基本的には叱りつけたり責めたりしてはいけません。驚いたりしてしまう人がいますが、これは適切な対応ではありません。もちろん見てみるふりするのは、リストカットをさらにエスカレートさせてしまう可能性があります。
リストカットは自分が好んで始めた行為ではなく、あくまで積み重なった悩みやストレスを解消するための心のガス抜き行為だからです。誰にも言えずにそこまで追い込まれているからこそ、リストカットせざるを得なかったのだと理解することが大事です。
そのため「リストカットはしてはいけない」という言葉は、何の意味も持っていません。リストカットをやめるのは、本人に任せるしかないのです。
まずは本人の心に寄り添い、根底にあるストレスの原因をケアしなければなりません。サポートに悩んだらまずは、身近な支援に頼ることが一つのステップです。スクールカウンセラーや地域の保健センター、精神保健福祉センターなどの専門の施設に相談しましょう。
リストカットはやめないといけないのか
リストカットはストレス解消のための行為なので、自殺企図とは違うと考える人がいます。しかしリストカットを含めて自傷行為は、エスカレートしていくことが分かっていて、少しずつ死をたぐり寄せているといえます。
繰り返しているうちに痛みに慣れてしまい、頻度が増えたり、より深く切ってしまったりしてしまいます。手首だけではなく、脚や顔まで切らずにはいられなくなってしまうこともあります。
また以前はリストカットなしで克服できたストレスであっても、リストカットが必要な生活になってしまいます。
リストカットによって救急搬送された人を調べてみると、多くの人に「死にたい」という気持ちがあったことが確認できます。このようにリストカットをする人々は極端に絶望的な精神状態であることが確かです。さらには、リストカットした傷口から雑菌が入り、感染症を引き起こしたり、傷跡もなかなか消えるものではありません。また、目立つ傷跡を消す場合も手術費用がかかってしまいます。そのためリストカットの行為は、放っておくべき問題ではないと認知する必要があるのです。
任意入院や保護入院が必要になる場合も
リストカットは精神的なストレスが強く関連しているので、必要であれば自宅療養(休学・休職)、任意入院(自傷者本人の同意による入院)もしくは、医療保護入院(保護者の同意による入院)などで専門の病院に入院せざるおえない状況も少なくはありません。これには、リストカットだけの問題だけではなく、他の精神疾患を併発している可能性もあるからです。精神症状が他の人や自分に危険があるなどの症状がある場合は早めに精神科・心療内科に相談しましょう。早めの対策が治療の負担を減らす場合もあります。現在は医学の研究の発達で、うつ病やストレスは入退院せず外来での通院で治療が可能です。
リストカットとうつ病の関係
~早めに専門機関に相談を~
リストカットは、手首を切るなかで辛さや苦しみ、怒りなども一緒に切ってしまい、記憶の中から失くしてしまう行為です。繰り返し行為を行うようになり、エスカレートしていくことが多いので注意が必要です。
そのためリストカット自体は自殺企図(自殺の計画を企てること)とは言えませんが、自殺と密接に関係する行為であることは間違いありません。特にリストカットしていないときに「死にたい」という思いが湧き上がることが多く、そのようなときにリストカットしてしまうと衝動的に深く切ってしまうことがあります。
そのような状況にあるならば、早めに精神科や心療内科など専門医療機関に相談をお願いします。
リストカットとうつ病の関係
リストカットする人の中にはうつ病を発症させている人も多くいます。積み重なったストレスによってうつ病を発症させてしまい、自分自身に価値を見出すことができずにリストカットしてしまうようになるのです。
リストカットしている人に共通してみられる心理状態として、不安感や抑うつ、無力感、見捨てられ感などがあります。
これらの心理状態が強くなりストレスが積み重なっていくことによって、障害が乗り越えられなくなり、うつ病を発症させてしまうことがあります。うつ病を発症させてしまうと、判断能力が低下しすべての物事を否定的に捉えてしまうようになります。
抑うつ気分が強くなり、何に対しても興味や意欲がなくなります。イライラすることも増え、必要以上に自分を責めることもあります。思考力が低下し、「死にたい」と考えてしまうようになってリストカットしてしまうのです。
それまで乗り越えられていたストレスも、強い辛さに感じるようになってしまい、結果的にリストカットを含め自傷行為を行ってしまいます。
精神科や心療内科など
専門医療機関を受診する重要性
抑うつ気分やイライラ、自殺願望などが続くようであれば、うつ病を発症している可能性があります。気になる症状に気付いた場合には、精神科や心療内科など専門的なケアを受けることを推奨します。
このような症状が長く続いている場合、休養だけでは解決することが難しく、適切な治療を必要とします。
特にうつ病は10代の若年者においても増えています。「子どもはストレスなんてない」と考えることは間違いです。
若年者に増えているうつ病には「新型うつ病」と呼ばれる新しいタイプの症状を持ったものが見られるようになりました。従来のうつ病のように、抑うつ状態が続くものではなく、自分の好きな時間や行為のときには元気になるという特徴を持っています。
そのため周りから見ると単なるわがままのように見えてしまうことがあり、気付かずに放置されてしまうことがあるのです。
そのため、うつ病の発見が遅れ、回復が遅くなることもあります。少しでも気になる症状がみられるのであれば、積極的に精神科や心療内科などの専門医に相談するようにしましょう。
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