抗うつ薬が効かない、副作用がつらい

抗うつ薬はうつ病治療の主役です。
現在も改良され続け、治療効果も着実に高まっています。抗うつ薬が大勢の人を救ってきたことは紛れもない事実で、この先、その役目を終えてしまうことは考えにくいでしょう。

他方で、服用時の副作用や、中断時の離脱症状(中断症候群)などのはっきりとした短所もあり、3分の1くらいの方にはそもそも効果がありません。実際に、抗うつ薬が十分に効かず、治療が長期化・難航している方や、強い副作用に悩まされ、あるいは耐え切れず治療を中断してしまう方も少なくありません。

このページでは、抗うつ薬が効かなかったり、薬の副作用に苦しんでいたりする方に向けて、治療が困難なうつ病とその治療の選択肢、さらには双極性障害が隠されている可能性について解説します。

難治性うつ病とは

「抗うつ薬が効かない」うつ病を《難治性うつ病》や《治療抵抗性うつ病》といいます。
難治性うつ病や治療抵抗性うつ病に、統一的な医学的定義はありません。難治性うつ病は、治療抵抗性うつ病とほとんど同じ意味か、場合によっては《不耐性》などを含んで使用されています。多くの場合は“薬物治療への”治療抵抗性や不耐性を指しています。
以下でもう少し詳しく説明します。

治療抵抗性うつ病

米国国立精神衛生研究所(NIMH)が資金提供した《STAR*D》研究によると、1剤目でうつ病患者の3分の1が寛解(症状がほぼなくなること)し、2剤目で残りの3分の1が寛解する一方で、4剤まで試行しても全体の3分の1は寛解できなかったとのことです(図1)。

さらに詳しく述べると、この研究では以下の手順で「最初の抗うつ薬処方で改善しない患者の治療方法」を調査しました。

  1. (第一段階)最初の抗うつ薬を投与。
  2. (第二・三・四段階)12週間かけても寛解または反応(うつ病の重症度が半分以下に改善すること)に至らない場合は、次の抗うつ薬に切り替え、もしくは追加投与。

結果として、各ステップの寛解率は、(第一段階)36.8%、(第二段階)30.6%、(第三段階)13.7%、(第四段階)13.0%であり、4ステップを通じての累積寛解率は67%と推定されています。

治療抵抗性うつ病は、《STAR*D》研究の寛解できないケースのように、薬物療法へ十分な反応を示さないうつ病のことです。おおむね「1~3種類以上の抗うつ薬を、十分な期間、十分な量を服用しても改善しないうつ病」を指します。

一般に、3割くらいの方は一剤目の抗うつ薬で効果を確認できます。この方々は、最初の2~3週間で効果を実感でき、およそ3ヶ月までに寛解(症状がほぼなくなった状態のこと)に至るといわれています。
ただし、寛解後も離脱症状や再発防止のために、通常は半年~1年(一般に推奨は2年)服用し続ける必要があります。

薬物不耐性

治療抵抗性とは別に、薬物不耐性という問題もあります。薬物不耐性とは通常量の薬物に対して、その副作用に耐えられなくなり、治療継続が困難になる性質のことです。
上述の《STAR*D》研究によると、副作用が理由で治療継続できなかった患者の割合は、服薬の段階が進むごとに16.3%→19.5%→25.6%→30.1%と大幅に増えています(図2)。

服薬アドヒアランス

重い副作用だけが、服薬中断の理由ではありません。
《服薬アドヒアランス》とは、患者が自主的に治療に取り組む積極性の程度のことです。患者が医師の服薬指示に従う受動的な《服薬コンプライアンス》よりも、「患者の積極性」に着目した用語です。
服薬アドヒアランスが向上(=能動的な治療参加)することで、自己判断での薬の中断や、不規則な服薬などが防止できると考えられています。

薬を継続的に飲み続けることは大変なことです。特に再発を防止するための維持治療では、症状が(ほとんど)無い状態で数カ月から年単位で飲み続けることになりますので、なおさら困難です。維持治療が効果的ということがわかっていても、「言うは易く行うは難し」ということでしょうか。
結果として、「半年で半数以上が治療につながらなくなる」とされています[3]

治療抵抗性うつ病の治療法

治療抵抗性うつ病に対して行われる代表的な治療法として、増強療法(強化療法)・併用療法、心理社会療法、電気けいれん療法(ECT)、TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)があげられます。

増強療法(強化療法)・併用療法

《増強療法(強化療法)》とは抗うつ薬が十分に効果を発揮しない場合に、気分安定薬や非定型抗精神病薬などを追加する治療法です。別の抗うつ薬を追加処方する場合は《併用療法》といいます。
増強療法・併用療法は、薬の切り替え時に必要な「前の薬を徐々に減らしつつ、新しい薬を徐々に増やしていく」というプロセスが省略できるため、より簡単に実行できることがメリットです。デメリットは、一般的に薬の複数使用が、単体で使うよりも副作用のリスクが大きくなることです。

精神療法・心理社会療法

難治性うつ病への精神療法は、通常の薬物療法との併用が基本です。
認知行動療法・対人関係療法・マインドフルネス認知療法・認知行動分析システム精神療法など、さまざまな精神療法が、その有効性を認められています。
また、体系的な技法に限らず、医療者の支持的・共感的な対応や、状況に沿った臨機応変な対応も、それ自体が精神療法として患者が改善する助けとなります。

電気けいれん療法(ECT)

《電気けいれん療法(ECT)》は、「頭部への通電によって人為的にけいれん発作を誘発することで、精神症状を改善する」治療法です。重度のうつ病や統合失調症などに高い治療効果を発揮します。(けいれん時の)骨折や怪我などのリスクを下げるために、現在では筋弛緩剤と全身麻酔を併用する《修正型電気けいれん療法(m-ECT)》が標準です。

代表的な副作用として記憶障害があり、治療時に絶飲食や入院が必要など、他の治療法と比べても実施のハードルは高めです。緊急的なケース(自殺や拒食などの生命の危機がある場合)以外は、重症患者や薬物治療が効かないときに選択されます。

ECTは再発率が高く、改善後の1年間で約半数が再発します。維持療法(再発防止のための治療)を行わない場合、8割以上が6ヶ月以内に再発するという報告もあり、薬物療法や定期的な維持ECTによるフォローが必須といえます。最近の研究では、ECT改善後のTMS治療が再発予防になる可能性が示されています。

TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)

磁気を介して脳の特定部位を刺激することで、うつ症状を改善させる治療法です。

抗うつ薬に限らず精神科の薬物は、患部(脳)に届くまでに血液にのって全身を巡るため、眠気・だるさ・ふるえ・吐き気のような、さまざまな全身性の副作用を起こします。
一方でTMS治療は患部(脳)を直接治療するため副作用がほとんどありません。副作用がつらくて薬物治療ができない場合は、TMS治療はおすすめです。

また、TMS治療は薬物療法とは異なるメカニズムでうつ病に働きかけるので、薬の効果が無い人にも有効である可能性があります。特に2剤目の抗うつ薬も効果が無かった場合は、TMS治療を試す価値はあるでしょう。

実は双極性障害かも?

治療抵抗性うつ病患者の4分の1が、その後双極性障害に診断が変更されているといいます。
もともと双極性障害の抑うつ状態と単極性のうつ病(普通のうつ病)を区別することは非常に困難です。それに加え、患者本人は躁状態・軽躁状態を「調子がいい」状態と思いがちで、病気の症状であると考えません。
さらに(特に双極性Ⅱ型障害では)抑うつ状態で来院する患者がほとんどで、過去の軽躁状態を診断するのは非常に難しいということも関係しています。

  • 双極性障害患者の3分の2はうつ症状から始まる
  • 約半数は、自分の躁状態を病気とは考えない(病識が欠如している)
  • 抑うつ症状の期間は、双極性Ⅰ型障害の場合で3分の1、双極性Ⅱ型障害の場合で約半分

2013年に行われたインターネット上のアンケート調査によると、双極性障害の診断を受けるまでに平均4年かかっています。3分の1が1年未満で診断されていますが、別の3分の1は診断までに5年以上かかっています。診断に時間がかかった理由の上位3項目(複数回答あり)は、「躁状態を病気と思わず、医師に伝えなかった」(39%)、「双極性障害を知らなかった」(38%)、「医師とのコミュニケーション不足」(25%)でした[4]
うつ病と双極性障害は治療方法が異なるので、両者の区別はとても重要です。

光トポグラフィー検査

当院では、診断に客観的視点を加える光トポグラフィー検査を行っております。
光トポグラフィー検査は、近赤外光を用いて脳表層部の血流変化を測定する検査です。この検査だけで診断できるわけではありませんが、《うつ病》と《双極性障害の抑うつ状態》を見分ける補助的情報として用いられます。

なお、検査に使用される近赤外光は、曇りの日光よりも弱い光で、副作用もなく安全性が広く認められています。

まとめ

現在、抗うつ薬はうつ病治療の主役ですが、万能というわけではありません。
薬物療法に十分な反応を示さない治療抵抗性に加えて、副作用に耐えられない不耐性、さらには自己判断による服薬中止など、薬物治療にも限界はあります。
治療がうまくいかないうつ病を《難治性うつ病》や《治療抵抗性うつ病》と呼びます。
従来はECTが治療抵抗性うつ病への切り札的治療でしたが、近年、身体的負担が小さいTMS治療が台頭しています。

また、もともとうつ病と双極性障害の区別が難しいこともあり、治療抵抗性うつ病患者の4分の1が、その後双極性障害に診断が変更されているという現状もあります。
当院では診断に客観的視点を加える光トポグラフィー検査も行っております。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

更新:2024-04-17