うつ病と台風~気圧はおろか、気分も下げる~
ごうごうと吹きすさび、ばらばらと窓を叩く音に不安を感じたり、頭痛や関節痛、めまいに悩まされたりと、台風は私たちの生活を脅かす自然災害です。
近年ではその進路や上陸予測の精度も上がり、事前に情報収集がしやすくなったとはいえ、実際にもたらされる損害の大きさのため、個々人にとっても大きなストレス要因になっています。
この大きなストレスは、うつ病を発症・悪化させる可能性があります。
この記事では、台風が心身に与える影響と、それらへの対処の仕方について解説します。
台風とは
《トロピカル・サイクロン》と呼ばれる気象現象があります。これは熱帯地方に発生する低気圧(熱帯低気圧/熱帯性低気圧)のことです。北太平洋西部の熱帯洋上で発生したトロピカル・サイクロンを《台風(たいふう)/タイフーン》と呼び、北太平洋東部や北部大西洋などで発生したものを《ハリケーン》と呼びます。
台風は、古くは「野分(のわき)」、明治頃には「タイフーン」「大風」などと呼ばれていたそうです。
明治末から大正初期には「颱風(たいふう)」と呼ばれるようになり、1946年の当用漢字の制定をうけて「台風」と漢字が改められました。
ストレス要因としての台風
台風は自然災害の1つで、社会に大きな影響を与え、個人にも大きなストレスを生じさせます。
台風がもたらすストレスには、以下のようなものがあげられます。
- 風害・波浪害:強い風は、風害や波浪害を引き起こします。家屋にダメージを与え、樹木や農作物にも被害が及びます。看板のような大きな飛来物が、建造物や人体に直接害を与える可能性もあります。暴風の騒音は大きく、夜間の場合は睡眠不足を招くかもしれません。海岸などには大きな波が押し寄せることもあり、生命の危険もあります。
- 水害:大量の雨が水害を引き起こします。台風の中心部のみならず、周辺部でも集中豪雨・局地的大雨(ゲリラ豪雨)が発生することもあり、河川決壊による洪水や、地盤が緩むことで土砂崩れが起こるなど、広範囲にわたって大きな事故が発生するリスクがあります。水による家財へのダメージは、洪水時の浸水だけではなく、雨漏りやベランダ越しの浸水などでも生じます。
- 低気圧:台風は低気圧の塊であり、台風接近による気圧の低下は、それだけでも自律神経のバランスを崩す要因となります。また、台風は《気象病》を生じさせる可能性があります。
- 交通機関のマヒ:公共交通機関が遅延したり運行休止になったりする場合もあります。移動が制限され、例えば会社から帰宅できず宿泊するはめになるなど、大きなストレスにつながる可能性があります。
- 外出の制限:天気が荒れることで、買い物などの外出も困難になります。また、各種イベントが中止される可能性もあります。
- ショッキングなニュース映像:テレビ中継などで災害の様子を知ることで、大きなショックを受ける可能性があります。
気象病
《気象病》とは、さまざまな気象変化によってもたらされる心身の不調の総称です。台風でも気象病が生じる可能性があります。
気象病では、次のような症状が生じる可能性があります。
- 片頭痛
- めまい
- 不眠
- 集中力低下
- イライラ感
- 古傷や関節が痛む
気象病がうつ病などの精神疾患をはじめ、さまざまな疾患に影響することが分かっています[1]。
天候とうつ病
うつ病の原因はストレスに限りませんが、ストレスはうつ病を発症・悪化させるリスクになります。悪天候時にうつ症状が悪化するという人は多く、実際にそのような報告もあります[2]。
台風への備え
現在は気象情報のおかげで事前に台風に備えやすくなっています。とはいえ、情報が入ってからでは食料などの必需品が品薄になるなど不都合も少なくないので、やはり普段から災害に備えておくことは大切です。台風の被害を受けてから慌てるのではなく、事前に準備しておくことで、被害自体やストレスを軽減できる可能性があります。
- 災害用に備蓄しておく:台風通過中は買い物に出ることも難しいため、事前に準備しておく必要があります。保存しやすく、保存期限の長い飲食物を日頃から数日分ストックしておくことは、台風に限らず地震など他の災害対策にもなります。懐中電灯と予備の電池は必須です。きちんと備えておくことで、いざ台風襲来時に慌てる必要がありません。
- 家屋をメンテナンスする:排水管や側溝のごみ掃除や、窓の補強、物干し竿や植木鉢など飛びやすいものをしまっておくなど、台風の暴風や大雨に備えておくことは、現実の被害とストレスを抑えます。飛来物の飛び込みの備えとしては雨戸を閉めておくのがベストですが、雨戸がない場合は窓ガラスに飛散防止フィルムなどを貼っておく、カーテンやブラインドを下ろしておくなども、ある程度の効果が期待できます。
物質的に台風・災害へ備えるだけではなく、ストレス対策としての備えも、台風の心身への悪影響を減らす助けになります。健康的な生活習慣は、ストレスの予防や解消に役立ちます。日頃から健康的な生活習慣を送ることも、台風をはじめとしたさまざまな災害によるストレスへの大切な備えです。
- 睡眠をしっかりとる:不規則な睡眠習慣は睡眠の質を低下させ睡眠不足を招きます。睡眠不足になると、イライラしたり、集中力が落ちたりなど生活に支障をきたすようになります。睡眠のリズムを守ることは快適な睡眠に重要な要素です。毎日同じ時間に寝て、毎日同じ時間に起きる習慣を身につけましょう。起床後はすぐに朝日を浴びてください。
- バランスの良い食事を3食とる:栄養バランスを考えたおいしい食事を、毎日決まった時間にとることは、健康な身体の基礎です。特に朝食を大切にしてください。
- 適度に身体を動かす:ストレスの予防・解消や健康にとって、身体を動かすことは大切な習慣です。日中にほどよく疲れることで、夜の睡眠の質も改善されます。まずは散歩するなど、今より身体を動かすことを意識してください。
医療機関にかかるべきですか?
台風の影響で体調不良が出たとき、それが一時的で日常生活に影響しない程度なら、それほど心配しなくても良いと思います。体調を崩すことが頻繁にあったり、気になったりするようなら、かかりつけ医に相談するのがよいでしょう。
しかし、気分が落ち込む、趣味が楽しめない、食欲や睡眠に異常があるなど、日常生活に支障をきたす症状が数週間続くような場合は、うつ病を発症している可能性があります。そのような場合は、精神科・心療内科を受診してください。
もし、医療機関に行くかどうか迷うようなら、セルフチェックなどで自分の状態を知っておくとよいかもしれません。
いずれにせよ、うつ病は早期発見・早期治療が大切です。医療機関にかかるかどうか悩んでいる場合は、それも含めて受診することをおすすめめします。
まとめ
台風は社会にも個人にも多大な影響を及ぼす自然災害の1つです。
自然災害としての風水害をはじめとして、低気圧や気象病、交通機関のマヒや外出制限、ショッキングなニュース映像などが個人にとって大きなストレス要因になると考えられます。
これらのストレスは、うつ病を発症・悪化させるリスクになる可能性があります。
台風は事前に備えておくことで、ある程度被害を軽減できる可能性があります。台風に対する物質的な備えは安心感につながり、生活習慣を改善することもストレスの予防や解消に役立ちます。
気分が落ち込む、趣味が楽しめない、食欲や睡眠に異常があるなど、日常生活に支障をきたしているような場合はうつ病を発症している可能性がありますので、精神科・心療内科を受診してください。
品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。