「配置転換・昇進・転勤」人事異動はうつ病を呼び込む転機?

部署異動や職種変更、転勤や出向、昇進や降格──長い会社員生活を送っていると、多くの人が人事異動を体験することでしょう。異動は自分自身を成長させるチャンスであると同時に、大量のストレスにさらされる正念場でもあります。
ストレスによって不調を感じる場合も、その多くは一時的なものですが、過剰なストレスの前に、うつ病などの疾患を発症してしまう可能性があります。

この記事では、会社員生活で必然的に直面する人事異動と、ストレスやうつ病との関係と対処法について解説します。

人事異動の種類

一般に企業は、従業員の人材教育や適材適所など、組織の活性化をはかって人事異動を行います。
人事異動の種類には以下のようなものがあります(あくまで一般的な用語ですので、実際に各企業で使用される用語には差異がある可能性があります)。

  • 配置転換:一般に同じ勤務地内で、所属する部署や業務内容が変更されることです。それぞれ部署異動、職種変更などと使い分ける場合もあります。また、配置転換に転勤を含める場合もあります。
  • 転勤:同じ企業内で勤務地が変わることです。北海道支店から沖縄支店への異動はこれにあたります。なお、転居の有無は問いません。
  • 昇進・昇格・降職・降格:職位が上昇する場合を昇進、下降する場合を降職といいます。等級が上昇する場合を昇格、下降する場合を降格といいます。職位とは役職や地位のことで、部長や課長などのポストがそれにあたります。等級は能力や責任に応じたランクで、通常は職位と結びついています。
  • 出向・転籍:子会社や系列会社などへの異動を出向や転籍といいます。元の雇用先との関係が継続しているものが出向、関係が終了するものが転籍です。

人事異動はストレス源になる?

それが望まない異動であればなおのことですが、希望がかなっての異動であっても、やはりストレス源となる可能性があります。人事異動はそれまでの会社員生活に大きな変化をもたらします。望んでいない悪いことの場合はもちろんのこと、本人にとって望ましい良いことであっても、変化自体がストレスとなります。
「転勤」を例にすると、以下のような要素に分解できます。

  • 引っ越し:遠方への転勤は、通常引っ越しをともないます。引っ越しはその準備・手続きや作業自体が大きなストレスです。さらに、転居先の住みやすさや通勤のしやすさ、単身赴任なのか一家同伴なのか、一家同伴なら配偶者の仕事や子供の転校の問題、持ち家ならその処分をどうするのかなど、解決すべきことが山積みです。
  • 人間関係:職場の人間関係がリセットされます。また、住居付近の人間関係(近所付き合い)も変化します。
  • 生活面:移動の距離によっては、食事(食材・味付け)が変わる、物価が変わるなど、生活面にも大きく影響します。また、南北の移動が大きい場合は、気温も大きく変化しますし、豪雪地帯と南国では、季節への備え方も変化します。趣味に制限ができてしまう(インドアな趣味なら家の間取りなどに、アウトドアな趣味なら気候などに)可能性もあります。
  • ライフプラン:望まない土地への転勤は、人生の計画が崩れたと感じる可能性があります。
  • ローカルルール:組織によっては、独自の慣習やルールがまかり通っている可能性があります。
  • 仕事のミスマッチ:転勤先で従事する仕事が、畑違いで適正に合っていない、量や質が適切ではないなど、ミスマッチが生じる可能性があります。

「転勤」と、言葉にすればたった一言ですが、要素に分解していくとストレス因となりうる変化が非常に多岐にわたっていることが分かります。
国内の求人・人材紹介関連の民間企業の調査によれば、約7割の人が転勤の辞令に退職を考えたと回答し、実際に3割の人は退職経験があると回答しています[1]。相当な割合の人にとって、真剣に離職を検討するくらい、転勤はストレスフルな出来事であるということでしょう。
もちろん、ストレスがあるからといって、全ての人がうつ病を発症するわけではありません。多くの人は、すぐに、あるいは時間をかけて新しい環境に慣れていきます。しかし、変化のストレスから、心身に不調をきたす人がいるのも事実です。

なお、「会社員の転機」という意味では、入職や退職、解雇、転職なども同様にストレスフルな出来事になりえます。

人事異動とうつ病

上では転勤を例にあげましたが、人事異動というのは企業内での自分自身の立場が変化するものであるため、大きなストレスになる可能性があるのは異動全般にいえることです。
一般にポジションが上がる異動を「栄転」、ポジションが落ちる人事を「左遷」といいます。「左遷」によるストレスが大きいことはいうまでもありませんが、最近では「栄転」も、プライベートを圧迫するものとして歓迎されないことが増えているようです。

うつ病の原因はストレスに限りません。しかし、ストレスはうつ病を発症・悪化させる十分なリスクとなりえます。もし、異動の前後から、気分が落ち込んだり、趣味が楽しめなかったり、眠れなかったりなどの体調不良が続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があります。

人事異動で不調なときは受診すべきですか?

人事異動の前後に多忙から心の余裕を失ったり、環境の変化に戸惑ったり、動揺したりすることは珍しいことではありません。たいていは一時的なことなので、このような状態だからといって、すぐに医療機関にかかる必要はありません。
しかし、変化から数週間が経過し、ある程度落ち着いてもいい時期になってもまだ体調不良(気分が落ち込む、趣味が楽しくない、眠れない、腹痛や頭痛、食欲がないなど)が続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があります。そのような場合は精神科・心療内科を受診してください。

人事異動のストレスとうまく付き合うために

会社員にとって人事異動は避けることが難しい出来事ですが、ストレスであると同時に、自分自身を成長させ、待遇を向上させるチャンスでもあります。長い会社員生活では、ほとんどの人が人事異動と縁がありますから、ストレスとして避けるだけではなく、前向きに取り組む必要もあるでしょう。
実際に直面したときにストレスに負けないためにも、ライフスタイルの見直しは有用です。

  • 規則正しい生活を送る:健康の基礎は規則正しい生活です。規則正しい生活の基本は、就寝時間と起床時間を毎日守ることです。特に起床時間は重要です。十分な睡眠をとり、目が覚めたら、朝日を浴びて1日をスタートしましょう。
  • 健康的な食事を取る:栄養バランスを考えた食事を、1日3回、毎日決まった時間に食べます。特に朝食が重要です。
  • 身体を動かす:適度な運動は夜の寝つきをよくするほか、メンタルの改善にも役立ちます。
  • 周囲の人に相談する:自分一人で悩んでも限界がありますので、同僚や先輩、上司などに相談することも1つの方法です。また、家族や友人に話をきいてもらうだけでもスッキリすることもあります。

まとめ

企業は従業員の人材教育や適材適所など、組織の活性化をはかって人事異動を行います。
人事異動は個人にとってそれまでの会社員生活に大きな変化をもたらすことから、望む、望まないにかかわらずストレス因となりえ、このストレスから《うつ病》などを発症する人もいます。
例えば「転勤」の場合なら、引っ越しにまつわるストレス、新しい人間関係や生活によるストレス、ライフプランが崩れたと感じるストレス、仕事のミスマッチによるストレスなど、多種多様なストレスに襲われることになります。
ライフスタイルを見直し、周囲に相談することで対処できる場合もあります。一方で、数週間たっても気分が落ち込む、趣味が楽しめない、眠れないなどの体調不良が続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があります。そのような場合は医療機関を受診してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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