テレワークうつの原因と対策

テレワークうつの原因と対策

「テレワーク」は、新型コロナウイルスの感染拡大の繰り返しにより、新たな働き方として定着してきました。
しかし、業種によってはテレワークができなかったり、感染状況に応じてテレワークや出社に切り替わったりなど、働く場所は多様化しています。
テレワーク(リモートワーク)自体は、通勤混雑の解消や地方活性化度を目的として、コロナ禍以前から取り組まれてはいました。
令和2年6月に東京都が行った調査(注1)によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク導入率は57.8%で、令和元年度調査(25.1%)と比べて倍増しています。
急激な変化が従業員のメンタルにも影響を及ぼしているであろうことが予想されます。
今回はテレワークとストレス、そこから生じるテレワークうつについてお伝えします。

コロナ禍とテレワークうつ

HR総研等によって2020年4月に行われた「新型コロナウィルス感染症への組織対応に関する緊急調査 : 第一報」(注2)では、「正社員の一部または全員に対して在宅勤務/テレワークを導入した」と回答した企業は、84%であったと報告されています。
テレワークに関しては多くの場合「満員電車での通勤ストレスが減る」「時間を有効に使える」などのメリットが強調されやすいですが、働き方が大きく変わることからメリットだけではなくデメリットももたらします。
実際、上記の調査結果によると、「仕事上のストレスが増えた」と約6割の企業が回答しています。
このようなテレワークにおけるストレスに伴って、社員の心身に不調が生じた状態が「テレワークうつ」です。
最近ではコロナの感染状況に応じて、テレワークだったり、出社だったりと働く場所が変わることも増えてきており、臨機応変な働き方が求められています。

テレワークうつの典型的な症状

テレワークうつの曲型的な症状

テレワークうつは、抑うつ感、不安感、睡眠障害、頭痛、肩こり、眼精疲労、腹痛、下痢、腰痛、疲労感、倦怠感、意欲の低下など、様々な不調が現れます。
通常はうつ病の発症までは至っていない「適応障害」の段階ですが、対処しなければ、そのまま本格的なうつ病を発症する危険性があります。

テレワークうつの原因

仕事と私生活のメリハリが失われ、生活リズムが崩れる

テレワーク以前の典型的なパターンとしては、決まった時間に出勤し、決まった時間に仕事をはじめ、昼休みがあり、決まった時間に仕事を終えるというものだったと思います。多くの人は、職場では仕事、職場外はプライベートと、スイッチを切り替えながら毎日を過ごしていたと思います。
しかし、テレワークでは職場と自宅の移動が無くなることで、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすく、より一層意識してスイッチを切り替える必要があります。
通勤がなくなることによって早起きの習慣自体を失い、結果として生活全体が不規則になってしまうことも珍しくないようです。
そもそも、テレワークに適した環境を準備するのも大変です。
ある民間調査によると、在宅勤務の環境がなく困ったという人が、10代~30代で6割もいたそうです。

新型コロナで在宅勤務の環境がなくストレスを感じた人の割合

出典:ニュースサイトしらべぇ「30代の6割が「在宅勤務する環境がなくストレス」 作業用デスクが…」(注3)

椅子に座ったままの長時間労働と運動不足

椅子に座ったままの長時間労働と運動不足

テレワークはオンライン上で仕事を進めることが中心になりますので、多くの人はパソコンの前に座って仕事をする時間が増えると思います。
同じデスクワークでもオフィスの場合は、例えば上司や部下・同僚に声をかけるために席を立ったり、印刷した書類をプリンターまで取りにいったり、隣の部署まで物を届けたり、会議室で打ち合わせしたりと、こまごまと体を動かす機会がありました。また、通勤時の移動や、お昼ごはんを食べに出かけるなど、外出する機会もあったと思います。
しかし、テレワークではそういった機会が大幅に減少しがちです。
実際、筑波大学大学院と健康機器メーカーの「タニタ」が行った調査によりますと、テレワークに切り替えた社員の歩数は、コロナ禍前に比べておよそ3割程度減っていたということがわかったそうです(注4)。
座りっぱなしは脚の筋肉を使わないため、エコノミークラス症候群の恐れもありますし、パソコンでの作業が長くなると、肩こりや腰痛の原因にもなりえます。
また、運動不足は一般に免疫力を低下させます。感染予防のためのテレワークが、かえって病気への抵抗力を落としているのだとしたら、皮肉なことだと言わざるを得ません。

孤独感とコミュニケーション上のストレス

オフィスにいればちょっと声をかければ済むことが、テレワークになると、いちいちメールやチャットでやりとりするなど、これまでより時間も手間もかかってしまいます。特に急ぎの案件を処理しているときには、そういった制約が非常に煩わしく感じると思います。
また、休み時間に仲間と雑談することや、困ったことを相談するなど、これまでオフィスでは当たり前に行っていたことが希薄になってしまいます。
孤独感を感じるだけではなく、コミュニケーション不足が業務に支障をきたすようになれば、さらに大きなストレスを抱える要因になってしまいます。

マネジメントの困難さ

仕事をする上で、仕事に対する評価は欠かせません。
オフィスであれば上司が部下を直接チェックできるので、仕事への取り組み方や仕事への姿勢など、直接的な成果に限定しない勤務態度全般を評価することが可能でした。しかし、テレワークではそういった仕事ぶりを観察できません。そうすると自ずと評価基準が「成果」に偏重することになりますが、全ての仕事が目に見える成果に結びついているとは限りません。そもそもその成果を把握しづらいという問題もあります。
能力開発や教育訓練にも影響を及ぼします。対面でのOJTなしに、研修をオンラインのみで行うことは困難です。実際に仕事をする人の姿を見て学ぶ面も大きく、研修を受ける側にとっても質問しづらく不安が大きくなりやすくなります。
こういった、不満や不具合は、会社で働く人にとって大きなストレスとなります。

テレワークうつへの対策

テレワークうつへの対策

まず、自分自身が環境の変化に適応できていないという可能性を認識することが大切です。その上で、不調に対応するための対策を考えましょう。

生活のリズムを整える

公私のメリハリが失われることで、生活のリズムが大きく変わってしまっている可能性があります。いつの間にか仕事が始まり、いつの間にか仕事が終わっている、という状態ではメリハリなどつけようもありません。
例えば、仕事中は仕事着に着替えることで仕事モードに切り替え、仕事が終わったら部屋着に着替えるなど、公私を区切りメリハリをつけましょう。
生活のリズムを整える基本として、睡眠、食事などの体調管理に気を配ることはとても大切です。
快適な睡眠には起床時間が大切だといわれています。
テレワークであっても、これまでと同じように、決まった時間に起床するように心がけましょう。早起きして朝日を浴びることで、生体リズムもリセットされ、質の良い睡眠をとることにつながります。
また、1日3回、栄養バランスを考えたおいしい食事が健康な体の基礎となります。特に朝ご飯をしっかり食べて、仕事に備えましょう。

体を動かす

通勤時や社内での移動など、これまでは「身体を動かす」ということを意識しなくても、習慣の中で自然に体を動かしていましたが、テレワーク時は意識的に体を動かさないと、平時よりも運動不足になりがちです。
なお、厚生労働省が「健康づくりのための身体活動基準2013」で身体活動の基準を定めています(注5)。

  • 18~64歳:3メッツ以上の強度の身体活動を毎日60分
  • 65歳以上:強度を問わず、身体活動を毎日40分

「3メッツ以上の強度の身体活動」とは、歩行またはそれと同等以上の身体活動のことです。「身体活動」は、運動だけではなく、日常生活における労働や家事、通勤通学なども含んでいます。通勤時間が無くなった分、上記を参考に体を動かすようにしましょう。

また、エコノミークラス症候群予防の観点からも、水分をきちんと補給し、座りっぱなしにならないように気を付けてください。
車中や飛行機の中と違い、その気になれば部屋の中でも移動くらいはできると思いますので、1時間に1回くらいは席を立って体を伸ばすなど、せめて長時間座りっぱなしになることだけでも避けましょう。

孤立を避ける

業務自体は一人で行う場合でも、多くの仕事は他の人と連携しているものです。
オフィスという空間でつながっていた関係を、テレワークはオンラインという形で点と点の関係に分割します。同じ場所に人が複数いるからこそ、お互いの状態に気を配れるという側面もあります。意識せずとも視界に入っていたのが、意識しなければ視界にも入らないという状態に陥ってしまうのです。
一日誰とも会話もなく、顔を合わせることもない、そんな状態が続くことは、多くの人にとっては大きなストレスになることでしょう。そのような環境で勤務しているのなら、意識的に人とかかわるようにしてください。
もちろん、プライベートでも構いません。仕事の問題を直接解決することは難しいですが、誰かに悩みを聞いてもらえるだけでも、心は軽くなるものです。

それでもうつ症状が続くようなら

それでも心身に不調が生じた状態が続くようなら、心療内科・精神科に相談することも考慮に入れてください。
不調が長引く場合はうつ病の可能性もあります。うつ病は放っておけば勝手に治るものではなく、うつ病の改善には早期発見と早期治療が大切です。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬に頼らない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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