10代のストレスとうつ病

ストレスを感じたり、気分が落ち込んだり、不安を感じたりということは、10代の若者を含むあらゆる世代の人にとって自然で正常な経験です。しかし、そのような感情や状態が長期間続いたり、頻繁に起こったりするような場合は、何らかの対処が必要となる可能性があります。

かつて、子供はうつ病と無縁であると考えられていましたが、実際には子供もうつ病にかかる可能性があります。10代のうつ病は大人とは異なった症状の現れ方をすることも多く、発症に気付かれずに治療されないままになっていることも少なくありません。
我が国の10代は、主に教育に費やされる時期であり、うつ病などの発症はその貴重な機会を失うことにつながります。

この記事では、10代の青少年の、ストレスの兆候やその対処方法、うつ病に発展した場合などについて解説します。保護者の方はぜひご一読ください。

ライフステージとしての10代

2025年現在での10代は、2006年(平成18年)~2015年(平成27年)生まれの人が該当します。
文部科学省の『学校基本調査』によると、高校等への進学率は2010年には98%に達し、以降その水準を維持しています[1]。多くの人が10代のほとんどの期間を、学校生活(小学生、中学生、高校生、専門学生、大学生など)に費やしています。

10代によくあるストレス

10代が直面するストレスは、必ずしも大人が体験するストレスと同じではありません。しかし、大人と同じように10代の若者もさまざまなストレスに直面し、それらに対処しながら生活しています。
10代で直面しやすいストレス要因には以下のようなものがあります。

  • 試験、宿題、人前での発表、受験
  • 友人や家族とのけんかやトラブル
  • 引っ越し、転校、親の離婚などによる環境の大きな変化
  • 家族、友人やペットの病気や死亡

ある出来事へのストレスの感じ方には個人差があります。勉強が苦手な人は毎日の授業やテストが苦痛でしょうし、運動が苦手な人には体育の時間、球技大会やマラソン大会などが苦痛でしょう。
すべてのストレスが常にネガティブに働くとは限らず、むしろ適度なストレスは私たちの成長をうながし、生活を充実させるものです。
しかし、慢性的なストレスは、健康面の問題を引き起こす可能性が高く、適切な対処が必要です。

ストレスを抱え込みやすい10代

10代の若者は多様なストレスにさらされますが、やはりこの時期の最大の悩みごとは、勉強や進路に関することといえるでしょう。

10代によくある悩みごと

少し前のデータですが、厚生労働省の調査によると、小学校5~6年生の43.8%、中学生の58.5%、高校生等(「高校生」「各種学校・専修学校・職業訓練校の生徒」の合計)の62.3%が、何らかの不安や悩みを抱えていると回答しています(図1)。
悩みの内訳は、「勉強や進路」を筆頭に、「性格や癖」「顔や体形」「友達」などが上位を占めています。特に「勉強や進路」は、小学生で半数、中高生では約85%と、年齢にかかわらず多くの児童・生徒に共通する悩みであることが分かります。
10代の若者は、「勉強や進路」をはじめとした、さまざまなストレスに悩まされる時期です。

高校生の進路選択におけるストレス

全国高等学校PTA連合会と株式会社リクルートによる「全国の高校2年生とその保護者」を対象とした「高校生と保護者の進路に関する意識調査」の合同調査結果では、「進路選択についての気がかり」として、2023年は57.3%が「学力が足りないかもしれない」という不安をあげています。2019年と2021年の同様の調査でも、それぞれ62.6%、55.4%と過半数が同じ不安をあげています(図2)。
2~3位の「やりたいことが見つからない、わからない」「自分に合っているものがわからない」がそれぞれ35%前後で推移していることを考えると、この年齢の子供たちにとって学力不足がいかに大きな不安要素であるかが分かります。

10代のストレスの兆候・症状

10代の若者のストレスの兆候は、以下のような形で現れます。

  • 文章を読んでも頭に入ってこない
  • 授業に集中できず、時間だけが過ぎる
  • 覚えたはずのことが出てこない
  • 周りの音や気配が気になって集中できない
  • 身体がだるくてやる気が出ない

家族や友人が気付きやすい、外からも観察しやすい症状もあります。

  • 性格が変わった(特に積極性の低下、消極化)
  • 成績が急激に下がった
  • 夜更かしや寝坊が増えた、日中眠そうだ
  • イライラし、ささいなことに声を荒げる
  • 頭痛や腹痛、肩こりなど身体の不調を訴える
  • 何度も体調不良(微熱や軽い風邪)になる
  • 友人との交流や趣味の活動が減り、外出しなくなった
  • 自己非難(「僕はバカだ」「みんなに嫌われている」など)をする
  • 食欲の変化

10代のストレスとの付き合い方

ストレスに負けないためには、日頃からストレスと上手に付き合っていく必要があります。規則正しい日常生活や、毎日を楽しく過ごすことは、ストレスとうまく付き合う上で重要です。

睡眠の改善

規則正しい生活習慣の基本は睡眠のコントロールです。毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるようにしましょう。特に起床時間が重要です。朝目覚めたら朝日を浴びてください。
10代の若者は一晩に8~10時間くらいの睡眠が必要であるといわれています。日中に居眠りする、週末には昼まで寝てしまうというような場合は、そもそも普段の睡眠時間が足りていない可能性があります。
記憶の整理と定着は睡眠中に行われていると考えられています。いくら勉強しても、十分に睡眠をとらなければ効率的には記憶できません。徹夜で勉強しても、すぐに忘れてしまいます。

身体を動かす

運動には、ネガティブな気分を発散させる作用があります。
10代の若者は、体育の授業や部活動など、身体を動かす機会が大人よりもかなり多いと思います。競技目的ではなく、ストレス解消目的で行う場合は、激しい運動ではなく、軽いものでいいので、長期的、習慣的な運動を心がけましょう。
日中に適度に運動し軽く疲労することで、夜にぐっすり眠れる上、記録力・思考力の改善にも役立ちます。運動習慣がない場合は、まずは近所の散歩から始めましょう。

食事と水分補給

栄養バランスのとれた食事を、1日3回、規則正しくとりましょう。エネルギー補給という意味だけではなく、決まった時間の食事が、体のリズムを整えてくれます。
特に朝食は重要です。午前中の授業や勉強に備えるためにも、炭水化物を主食にした朝食を、早起きしてしっかりとりましょう。夜間の間食は控えましょう。
成長期に十分な食事をとることは、心身の成長のためにもとても重要なことです。

リラックスできる時間を作る

ゆっくりお風呂に入る、読書をする、音楽を聴く、お気に入りの香りをかぐ、自然と触れ合う──リラックスした快い時間を過ごすのは、代表的なストレス解消法です。マッサージやストレッチなども効果的です。集中することに疲れたときは、無理をせずに気分転換することも大切です。
以下の記事でストレスの解消法をまとめていますので参考にしてください。

相談する

普段からストレスをためないように努めていても、どうしてもストレスがたまってしまうのは仕方がないことです。
しかし、イライラし気分が不安定だったり、勉強に集中できなくなったり、覚えたはずのことが出てこなかったりなど、いろいろな異変を感じたときは、一人で悩まずに周囲に相談してください。話を聞いてもらうだけでも気分が落ち着くこともあります。
相談することは弱みを見せることではありません。家族や友達の他に、学校の先生やスクールカウンセラーに相談するのもよいでしょう。

いつ受診すべきですか?

成績が悪い、試合に負けた、友達とけんかした、失恋した、などはっきりした理由があって数日落ち込んだり、眠れなくなったりしても心配する必要はありません。10代に限らず、このような体験で落ち込んでしまうのはごく自然なことです。
しかし、集中力の低下や日中の眠気、ずっと疲れが取れない、成績が下がる、遅刻や欠席が増えるなど、数週間以上日常生活に支障が出ている場合は、うつ病を発症している可能性があります。医療機関で医師に相談してください。

うつ病は治療や適切な対処なしに自然に改善することはほとんどなく、放置することで長引く傾向があります。早期の対処が早期の回復にもつながります。

10代のうつ病の特徴

一般に、うつ病は元気を失ってふさぎ込んでいるイメージで知られています。
もちろん、10代でもそのような症状が現れることもありますが、従来の「定型的」なうつ病とは異なる「非定型的」な症状が目立つことが少なくありません。
10代のうつ病ではイライラして怒りっぽい部分が目立つことがよくあります。また、食べることが抑えられなかったり(過食)、いくら寝ても寝足りなかったり(過眠)、頭痛や腹痛を訴えたりと、身体症状が前面に出ることもよくあります。また、幻聴などの精神病症状をともなうこともあります。
学校に行かない、勉強をしなくなる、暴れるなどの行動面に問題が現れることもあります。

うつ病は早期発見・早期対処が重要です。心配なようでしたら、セルフチェックの結果に関係なく、医療機関にご相談ください。

かつて、子供はうつ病と無縁であると考えられていましたが、今日では子供もうつ病にかかり得ることが認知されるようになりました。うつ病の新規発症率は、小学生では大人の4分の1程度ですが、12歳以降には大人と大差ないレベルにまで急上昇することが明らかになっています。
10代を含む児童・思春期のうつ病は大人とは異なった症状の現れ方をすることも多く、気付かれないままになっていることも少なくありません。

10代のうつ病の治療

10代のうつ病治療としては、《心理療法・精神療法》《薬物療法》《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》などがあげられます。

心理教育・精神療法

10代のうつ病治療では、心理教育などの《心理療法・精神療法》が重視されます。また、大人のうつ病治療時以上に、家族を含めた治療がより重要視されます。

薬物療法

成人期のうつ病治療では、抗うつ薬を中心とした《薬物療法》が主流です。しかし、10代を含む若年層への抗うつ薬の効果と適用は限定されています。成人には有効な抗うつ薬が、若年層には効果が認められないことが多いこと、治療の長期化が受験や学校生活の妨げになることに加え、特徴的な副作用が出やすいためです。
特徴的な副作用としては、不安・焦燥感・攻撃性や衝動性、自殺リスクなどが高まる《賦活症候群(アクティベーション・シンドローム)》、日中の眠気などがあげられ、これらの副作用は学業や受験などに大きな影響を与える可能性があります。

TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)

《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》とは、磁気による誘導電流で脳の特定部位を刺激し、うつ症状の改善をはかる治療法です。うつ病治療としては治療期間が短いことと副作用がほとんど無いことが大きな特徴です。
また、TMS治療は認知機能への悪影響がほとんど認められていません。短期間で日常に復帰できる可能性とあわせて、学校生活のある10代の治療には最適であると考えています。
当院では、若者と保護者に対しメリットやデメリットを十分に説明・比較検討した上で、慎重に実施するようにしています。

品川メンタルクリニックのTMS治療

品川メンタルクリニックではTMS治療を行っています。
現在のうつ病治療の主流は抗うつ薬による薬物治療ですが、スッキリと効果が現れるうつ病患者は全体の3分の1くらいで、3分の1の人にはほとんど効果が望めないという報告があります。
当院のTMS治療では5~6割の人が寛解(症状がほとんどなくなること)し、全体の8割程度の人の症状が軽くなっています。
前述の通り、TMS治療は副作用もほとんど無く、学校生活への影響は最小限になることが期待できます。

10代でも通いやすい

品川メンタルクリニックは、10代の方でも安心して通院できるように、さまざまなサポート体制を準備しております。

  • 学校帰りでも通いやすい、夜の19時まで診療
  • 土日も診療
  • JR品川駅から徒歩5分圏内
  • 商業ビル内なので人目の心配が無い

学校などで忙しい10代の方が予約しやすいように、ネット予約は24時間受付しております。スマートフォンやパソコンからネット予約が可能です。
なお、未成年者の診療は親権者同伴が必須となっておりますので、ご予定をあわせてご予約ください。

まとめ

10代で直面しやすいストレス要因には、学業に関すること、家族や友人との関係、転校などの環境の変化、家族・友人やペットの病気や死亡など、さまざまなものがあります。とはいえ、やはりこの時期の最大の悩みごとは、勉強や進路に関することでしょう。
ストレスによる良くない兆候は、「文章が頭に入ってこない」「授業に集中できない」「やる気が出ない」など、本人の主観的な症状から、「ちょっとしたことで声を荒げる」「性格が変わった」「成績が落ちた」「食欲が変化した」などの周囲が気付きやすい症状までさまざまです。
ストレスに負けないためには、日頃からストレスと上手に付き合っていく必要があり、規則正しい日常生活や、毎日を楽しく過ごすことがとても大切です。
慢性的なストレスにさらされ続けるとうつ病を発症する可能性があります。そのような場合は、医療機関に相談してください。10代のうつ病治療では、《心理療法・精神療法》《薬物療法》《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》などの選択肢があり、当院は特に副作用のほとんど無いTMS治療を専門的に行っています。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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