その不眠はうつ病の症状かも?

「寝つきが悪い」
「夜中に目が覚めたあと、眠れなくなる」
「夜中に何度も目が覚める」
「朝早くに目が覚めて、二度寝できない」
「よく眠れないまま朝になった」

《不眠》は成人の3分の1が悩むありふれた睡眠の問題です。
不眠はストレスや加齢などでも生じるため、全ての不眠が病的であるわけではありませんが、《うつ病》では8割以上の人に現れるよくある症状です。
一方で、不眠はうつ病の発症リスクや自殺リスクを高めるという報告もあり、軽視してよい症状ではありません。

この記事では、不眠の症状やうつ病との関係、原因や対処法、受診の目安などについて解説します。

不眠とは

夜によく眠れない状態を一般的に《不眠》といいます。
「夜に眠れない」からといって、全てが病的な《不眠》であるとは限りません。「眠れない」と感じても、「若いころと比べて眠れない」や「他の人と比べて眠れない」というような場合は、本来必要な時間以上に睡眠をとろうとしているだけの可能性があります。
必要な睡眠時間はもともと個人差が大きく、加齢とともに自然に短くなります。
そもそも、環境・状況などの変化やストレスによる一時的な不眠は、誰にでも当たり前に生じる正常な反応です。むしろ、この一時的な不眠を避けようとするあまり、かえって眠れなくなり、本格的な不眠になってしまうということもあります。

不眠の症状

アメリカ精神医学会(APA)によれば、成人の約3分の1が不眠症状を訴え、6~10%が実際に《不眠症》の診断基準を満たしているといいます[1]
《不眠症》は、以下で述べるような不眠症状に加えて、日中の活動に支障をきたす状態が長期間続く疾患と考えられています。これらの状態は不眠症に限らず、不眠全般にみられます。

入眠困難(入眠障害)

寝床に入ってもなかなか眠りにつけず、寝つくまで時間がかかる状態です。「なかなか寝つけない」「眠ろうと思うほどかえって目がさえる」などの経験が入眠困難にあたります。
成人日本人の7.2%が入眠困難を体験しているといいます[2]
騒音や照明、かゆみや痛み、精神的な問題や不安感・緊張感などが入眠困難を招く原因になります。

中途覚醒(睡眠維持困難)

睡眠中に目が覚めて、睡眠が中断される状態です。「夜中に何度も目が覚める」「目が覚めた後になかなか寝つけない」などの経験が中途覚醒にあたります。
成人日本人の15.2%が中途覚醒を体験しているといいます[2]。中高年で頻度が高い症状です。

早朝覚醒

意図した起床時刻よりも早く目覚めて、そのまま眠れなくなる状態です。「朝早くに目が覚めて、そのまま寝つけなくなる」「朝早くに目が覚めた後は、うとうとするだけ」などの経験が早朝覚醒にあたります。
成人日本人の5.2%が早朝覚醒を体験しているといいます[2]。老年者に多い不眠です。
なお、早朝覚醒後に感じる熟眠感不足は、うつ病によくみられる症状です。

熟眠障害(非回復性睡眠)

睡眠時間が十分でも熟睡できた感覚が乏しく、休養感を得られない状態です。睡眠の中断や、眠りが浅い、などを前提として「疲れが取れない」「眠った気がしない」「よく眠れないまま朝になった」などの経験として現れます。
多くの場合、他の症状とあわせて訴えられます。

不眠のときは受診すべきですか?

旅行前日にわくわくして眠れない、明日の面接に緊張して眠れない、試験の結果がショックで眠れない──楽しみなこと、心配なこと、悲しいことなどがあり、一晩だけ(長くてもせいぜい週末までの数日間)の不眠は自然なことで心配ありません。
しかし、不眠が何日も続き、日常生活に支障が出ている場合は、医療機関を受診しましょう。
もし、今の症状について初めて医療機関にかかる場合は、まずはかかりつけ医に相談してみるのもよいでしょう。不眠だけではなく、気分の落ち込みや意欲の低下などを感じる場合は、うつ病などの可能性がありますので、最初から精神科・心療内科を受診するのもよいでしょう。

受診の際には「いつごろから眠れていないのか」「どのように困っているのか(寝つきが悪い、眠りが浅い、日中に居眠りしてしまう、など)」「何か原因に心当たりがあるのか(残業が続いている、会社の人間関係でストレスを感じている、など)」あたりは必ず確認されると思いますので、事前に整理しておくとスムーズに受診できると思います。

不眠はうつ病とかかわりが深い

不眠は、気分障害(うつ病や双極性障害)・不安障害・統合失調症など、精神疾患でよくみられる症状で、特に《うつ病》では、その80~85%に不眠が認められます。我が国での報告によると、うつ病の人には熟眠障害が89.9%、入眠障害が73.3%、早朝覚醒が47.7%、全体として94.1%に何らかの睡眠障害がみられたとのことです[3]
また、不眠のある人がうつ病を発症するリスクは、そうでない人に比べて2倍のリスクがあるという報告[4]や、不眠や悪夢がうつ病患者の自殺リスクを大幅に高めるという報告[5]もあります。

このように不眠とうつ病は互いに深く関係しています。不眠の他に、気分が落ち込む、趣味が楽しめない、食欲がないなどの症状がある場合はうつ病の可能性があります。
ご自身の状態が気になる場合は、うつ病のセルフチェックなどもご利用ください。

うつ病は早期発見・早期対処が大切です。不調の心当たりがあって、うつ病かどうかが気になるような場合は、セルフチェックの結果に関係なく受診することをおすすめします。もし問題ないと分かっても、1つあなたの心配が減るため、徒労に終わるということはありません。

不眠のその他の原因

うつ病などの精神疾患以外にも、ストレスや加齢、睡眠障害、身体の疾患など、さまざまなことが不眠の要因となります。

  • ストレス:仕事・勉強・家庭・人間関係などに関する心配事や悩みがあると、眠る前にも考え込んで寝つきが悪くなります。家族や親しい人との別離や、環境の変化などのストレスフルな出来事も不眠につながる可能性があります。これらは多くの場合、原因の解決と共に不眠も自然におさまります。
  • 加齢:加齢とともに眠りが浅くなり、中高年以降は中途覚醒が増えます。
  • 身体疾患:身体の健康状態は、睡眠に影響を与える可能性があります。けがや関節の痛み、アレルギーにともなうかゆみや鼻水、ぜんそく、高血圧、心不全、がんなど、睡眠に影響を与える体調不良や疾患は数多くあります。
  • 睡眠障害:《睡眠時無呼吸症候群》《周期性四肢運動障害》《レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)》など、睡眠障害に不眠をともなうことは珍しくありません。
  • 薬の副作用:一部の抗うつ薬、ぜんそくや血圧の薬など、薬の副作用で眠れなくなる可能性があります。
  • カフェイン・タバコ(ニコチン)・アルコール:夕方以降のカフェイン・ニコチンは、覚醒作用の影響で夜の睡眠を妨げる可能性があります。寝酒は入眠を助ける場合がありますが、睡眠の質を大きく下げ、中途覚醒を引き起こすことがよくあります。寝酒は絶対にやめましょう。

不眠の対処

不眠の解消と予防には、睡眠習慣(睡眠衛生)を改善し、睡眠の質を上げる必要があります。誤った睡眠習慣は、不眠を強化・慢性化させる要因になります。

厚生労働省は、「健康づくりのための睡眠指針」を2003年に作成、改訂版を2014年に、2024年2月には最新版を公開しました。日本睡眠学会も「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」内で睡眠衛生について言及しています[6]

  • 睡眠時間にこだわりすぎない:必要な睡眠時間には個人差があり、加齢によって自然に短くなります。日中の活動に支障がないようなら、睡眠の長さにこだわる必要はありません。睡眠途中に目覚めること自体は別に珍しいことではありませんので、そのこと自体を強く問題視する必要もありません。
  • 睡眠のリズムを毎日守る:週末も含めて、毎日同じ時間に眠り、毎日同じ時間に起きるようにしましょう。起床時間は体内時計のリセットにも関係するため、特に重要です。新しい1日のスタートとして、目覚めたらすぐに朝日を浴びましょう。
  • 飲食物に注意する:食事は栄養バランスに注意して、規則正しく取りましょう。朝食は特に重要です。また、夕方以降のカフェイン摂取、就寝間際の食事は控えましょう。消化の時間を考慮し、食事は就寝2~3時間(できれば4時間)前までに済ませておきましょう。空腹は覚醒を促すため、空腹のまま眠るのはおすすめできません。あと、寝酒は絶対にやめましょう。
  • 日中は活動的に過ごす:日中にしっかり活動し、心身がほどよく疲労することで、よく眠れるようになります。日中の適度な運動は夜の熟睡につながります。
  • 快適な睡眠環境:騒音や光は睡眠の妨げになります。必要に応じて耳栓などの道具を使うのも一つの手段です。温度や湿度の管理も大切です。寒すぎても暑すぎてもよくありません。
  • 寝床には眠気のみ:眠気を感じてから寝床に入り、目が覚めたらすぐに寝床から出ましょう。スマートフォンなどの電子機器や、今日の後悔や明日の心配などの悩みごとを寝床に持ち込むことはやめましょう。

まとめ

《不眠》には、寝つきが悪い《入眠困難》、夜中に何度も目が覚める《中途覚醒》、朝早く目覚める《早朝覚醒》、熟眠感が得られない《熟眠困難》といった症状があります。
日中の活動に支障がないなら、睡眠時間の長短自体を過度に気にする必要はありません。しかし、日中眠くて仕方がない、集中力が低下している、気分が落ち込むなど日常生活に支障が出ているような場合は《不眠症》や《うつ病》などを発症している可能性があります。不眠の改善と予防には、睡眠習慣を改善する必要があります。
不眠が何日も続くときや、不眠症やうつ病などを発症している疑いがある場合は、早期に医療機関を受診してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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