寝ても寝ても眠い「過眠」は、うつ病と関係する?

寝ても寝ても眠い──
いくら寝てもずっと眠い──
うつっぽくて一日中眠い──
寝てばかりでやる気が起きない──

過剰な眠気のために仕事や勉強など日常生活に支障が出ている状態を一般に《過眠》といいます。
過眠は過眠症やうつ病などの症状であり、その病的な眠気は事故や労災を招くリスクがあるなど、決して軽視できるものではありません。

この記事では、《日中の過度な眠気》を中心に、過眠の原因と対処方法について解説します。

寝ても寝ても眠い《過眠》とは

《過眠》の定義は分類体系や研究によって異なり、統一されているとはいえない状態ですが、基本的には《日中の過度な眠気》と《睡眠時間の延長》を含む過剰な眠気をさします。

日中の過度な眠気

《日中の過度な眠気》とは、本来覚醒している時間帯に、強い眠気を感じ、覚醒状態を維持することが困難な傾向のことです。睡眠学においては、《過眠》は基本的に《日中の過度な眠気》のことです。
なお《日中の過度な眠気》は“Excessive Daytime Sleepiness”の訳語で“EDS”と省略されます。

《日中の過度な眠気》は、具体的には「眠らないように気合を入れているのに居眠りしてしまう」「目が覚めているつもりだったのに、気づいたら眠っていた」のような現れ方をします。睡眠不足でも生じるため、必ずしも疾患を意味するわけではありませんが、いずれにしても交通事故や労働災害などの原因にもなりかねないことから軽視できない状態であることには変わりありません。

睡眠時間の延長

《睡眠時間の延長》は、夜間の睡眠時間が長くなることや、日中に眠り込んでしまうことで、1日の総睡眠時間が長くなることです。

精神医学の分野では、過眠には《日中の過度な眠気》だけではなく《睡眠時間の延長》を含みます。
例えば、うつ病の場合は総睡眠時間が10時間以上(平時よりも2時間以上長い)の場合に過眠と認められます。

日中の過度な眠気の症状

日中の過度な眠気は自覚できることがほとんどですが、そうでない場合でも、次のような症状が日中の過度な眠気があることを示唆します。

  • 集中力の低下
  • イライラ感
  • 記憶力の低下
  • 疲労感
  • 無気力
  • 注意散漫
  • 目の焦点が合わない
  • 考えがまとまらない
  • あくび

日中の過度な眠気の影響

日中の過度な眠気は、日常生活にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。例えば以下のようなものです。

  • 交通事故や労働災害のリスク増加
  • 仕事の生産性の低下
  • 学業成績の低下
  • 負の気分や感情
  • 人間関係や社会生活上の問題

過眠は医療機関にかかるべきですか?

夜更かしした翌日、あくびが止まらなかったり、居眠りしてしまったりということはありふれたことです。不摂生の結果としての過眠は自然なことで心配ありません。数日で落ち着くなら特に問題はないでしょう。
しかし、次のような状態がしばらく続いているような場合は、医師に相談する必要があります。

  • 十分に眠っているのに、朝起きられなくなった
  • 日常生活に支障が出ている(集中力の低下、日中の眠気や居眠り、疲れが取れない、仕事のミスが増える、イライラする、など)
  • 気分の落ち込み、趣味が楽しくない、食欲不振や過食、やる気が起きないなど、過眠以外にも症状がある

後述しますが、過眠はさまざまな疾患に併存する症状であり、何らかの疾患が原因になって過眠になっている可能性もあります。現在、直接的な支障をあまり感じていない場合でも、「何かの病気では?」と、もやもやと不安な毎日を過ごしているようなら、医師に相談した方が良いでしょう。

日中の過度な眠気の原因

日中の過度な眠気の原因は、睡眠不足、各種の睡眠障害や心身の疾患など、数多く考えられます。以下はその中の代表的なものです。

睡眠不足

日中の過度な眠気の原因として最も一般的なものは睡眠不足です。単純な睡眠量の不足だけではなく、昼夜逆転のライフスタイルや、長時間労働、夜勤、寝室が騒々しいなど、睡眠の質の低下が睡眠不足を招く可能性があります。
睡眠不足自体は疾患ではありませんが、3カ月以上の慢性的な睡眠不足は《睡眠不足症候群》と診断される病的な睡眠不足の可能性があります。

睡眠・覚醒障害

《ナルコレプシー》《特発性過眠症》《クライネ-レビン症候群》は、夜間に十分な睡眠をとっても日中に過度な眠気が生じる過眠症です。睡眠・覚醒をつかさどる中枢系の異常と考えられており、《中枢性過眠症》と呼ばれます。
また、《閉塞性睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸症候群)》《レストレスレッグス症候群》《周期性四肢運動障害(PLMD)》などの睡眠障害は、睡眠が浅く断片化しやすいことが知られています。

ナルコレプシー

《ナルコレプシー》は、耐え難い強烈な眠気に襲われ、実際に眠ってしまう中枢性過眠症で、「居眠り病」とも呼ばれます。ナルコレプシーの過眠は、食事中、商談中、歩行中、車の運転中など状況を選ばず、繰り返し現れます。眠気を自覚する前に居眠りしてしまい、起きた後に気付くということもあります。
有病率は、日本では600人に1人と推定されています。

特発性過眠症

《特発性過眠症》は、「総睡眠時間の延長」「睡眠酩酊」「長時間持続する日中の眠気」が特徴的な中枢性過眠症です。
寝起きに眠気やぼんやりした状態が残る《睡眠慣性》は誰にでも起きる状態ですが、《睡眠酩酊》はこの睡眠慣性が病的なレベルで生じる状態です。その寝起きのひどさは、大音量の目覚まし時計の合唱を前にしても眠り続けるレベルです。
日中の眠気は1時間以上持続し、居眠り後にも爽快感が無く、眠気が続いて再度居眠りすることもあります。

クライネ-レビン症候群

《クライネ-レビン症候群》は、数日~数週間続く《過眠期》を繰り返す中枢性過眠症です。過眠期に入ると、食事・排泄以外はほとんど眠り続ける(1日20時間眠ることもあります)ため、日常生活に深刻な影響をもたらします。この異常は過眠期のみにみられます。
別名として“sleeping beauty syndrome”、日本語で「眠れる森の美女症候群」「いばら姫症候群」「眠り姫症候群」とも呼ばれます(ただし、患者の7割は男性です)。
クライネ-レビン症候群は非常に珍しい疾患で、有病率は100万人に1~2人と推定されています。

閉塞性睡眠時無呼吸(睡眠時無呼吸症候群)

《閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)》は、睡眠中に呼吸の停止・再開を繰り返す睡眠障害で、成人の《睡眠関連呼吸障害群》の99%以上を占めています。いびき、日中の過度な眠気、夜間の頻尿、気分が落ち込むなどの症状があります。
なお、睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸の旧名称ですが、現在でも使用されています。

レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群:RLS)

脚を動かさずにはいられない衝動や不快感から睡眠が障害され、日常生活に支障をきたす睡眠障害です。特に夕方から夜間にかけて症状が悪化するため、寝付きが悪くなり睡眠の質が低下する原因になります。その結果、日中の眠気につながります。

周期性四肢運動障害(PLMD)/睡眠時周期性四肢運動(PLMS)

定期的に四肢(主に脚)がぴくっとけいれんする睡眠障害です。睡眠中のため本人はこの動作を自覚しにくいですが、この動きが原因で頻繁に目が覚めてしまうことがあります。
周期性四肢運動のみで他の疾患が無い場合は《周期性四肢運動障害(PLMD)》と診断され、他の疾患と一緒に周期性四肢運動を認めた場合は《睡眠時周期性四肢運動(PLMS)》と診断されます。レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)と合併することが多い疾患です。

その他の過眠

身体疾患、精神疾患、薬物使用などに伴う過眠症状は、広義の中枢性過眠症に含まれています。

身体疾患に伴う過眠

頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、パーキンソン病、甲状腺機能低下症など、さまざまな身体疾患が過眠症状を引き起こします。

薬物や物質による過眠

処方薬の鎮静作用、薬物乱用(アルコールやアヘン・大麻など)、薬物(覚醒剤など)からの離脱などが眠気を促します。鎮静作用を持つ処方薬は、ベンゾジアゼピン系薬物(睡眠薬)・抗うつ薬・抗精神病薬・抗ヒスタミン薬(花粉症などアレルギーの薬)などがよく知られています。
あまり一般的ではありませんが、非ステロイド性抗炎症薬・抗菌薬・抗不整脈薬・β遮断薬(高血圧・心不全などの薬)でも眠気がみられることがあります。

なお、処方された薬の影響で過剰な眠気が出る場合でも、自己判断でやめたり減らしたりせずに、必ず主治医に相談してください。

精神疾患に伴う過眠

精神疾患に伴う過眠は気分障害(うつ病・双極性障害)が多く、転換性障害や身体表現性障害などでもみられます。

うつ病と過眠

気分障害(うつ病や双極性障害など)では、ほとんどのケースで睡眠に関する問題が併存しており、過眠は不眠と同様に、発症前から寛解後までみられる、珍しくない症状です。気分障害における過眠には、「睡眠時間の延長」と「日中の過度な眠気」が含まれます。
ただし、患者自身が過眠と思っている症状が、実際に睡眠している時間だけではなく、寝床から起きだせない時間も含めて過眠ととらえている可能性もあります。
睡眠の問題はうつ病と関係していることがよくあります。気分が落ち込み、趣味が楽しくない、食欲や体重が変化したなどの症状が続いている場合はうつ病の疑いがあります。

日中の過度な眠気の対処法

睡眠不足が原因の日中の過度な眠気は、睡眠衛生を改善し、睡眠の質を高め、しっかり眠ることで改善します。
睡眠の質を高め、怪我や事故を防ぎ、過眠の影響を抑えるには、ライフスタイルの見直しも必要です。例えば以下のような方法があります。

  • 睡眠のリズムを毎日守る:週末も含めて、同じ時間に眠り、同じ時間に起きるようにしましょう。
  • アルコールとカフェインの摂取を控える:アルコールとカフェインは睡眠の質を下げます。就寝数時間前のアルコール、夕方以降のカフェインは避けてください。特に寝酒は絶対にやめてください。
  • 寝室の最適化:明るい寝室、騒々しい寝室、暑すぎる寝室、寒すぎる寝室は睡眠を妨げる原因になります。電子機器は眠りを妨げるので、寝床に持ち込まないようにしましょう。
  • 危険な活動を避ける:強い眠気を感じているときは、自動車の運転や重機械の操作は絶対に避けてください。

疾患が原因の場合は、疾患の治療が必要です。
過剰な眠気は、あなたの生活に大きな損害を与える可能性があります。日中の眠気で日常生活に支障が出ているような場合は、医療機関にご相談ください。

まとめ

《過眠》の定義は分類体系や研究によってまちまちですが、基本的には「日中の眠気や居眠り」「睡眠時間の延長」をさしています。特に《日中の過度な眠気(EDS)》と定義される前者は、さまざまな疾患の症状であることも多く、集中力の低下やイライラ感、注意散漫などにつながり、交通事故や労災などの原因にもなりかねない軽視できない症状です。

日中の過度な眠気の原因としては、睡眠不足、各種の睡眠障害や心身の疾患など、さまざまな可能性があります。睡眠不足が原因の場合は睡眠の質を高め、しっかり眠ることで改善するので、まずは「睡眠のリズムを毎日守る」「アルコールとカフェインの摂取を控える」などの対処法をお試しください。
なんらかの疾患(例えばうつ病)が原因の場合はその治療が必要です。
なお、強い眠気を感じている時は、自動車の運転や重機械の操作は絶対に避けてください。
日中の過度な眠気が日常生活に支障をきたしているような場合は、医療機関にご相談ください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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