睡眠の質を上げる方法とは? ぐっすり眠るための9つのヒント

スッキリとした目覚めを最後に迎えたのはいつですか?
しばらくそのような朝を迎えていないという方、睡眠の悩みを抱えているのはあなただけではありません。20歳以上の日本人の約7割が、睡眠について何らかの問題を抱えているといいます。

日中に活動し夜に眠るという暮らしは、たき火やろうそく・オイルランプから、ガス灯・電灯へ光源の発展に伴って夜の活動時間を延ばしてきました。しかし、不眠不休の世界は、その代償として人類から睡眠時間を奪っています。
睡眠の問題はさまざまな疾患のリスクであり、これらの問題を解消するためにも睡眠衛生はとても重要です。

この記事では、質の高い睡眠を確保するための鍵である睡眠衛生について解説します。

睡眠に悩む人は多い

厚生労働省の「国民健康・栄養調査(令和元年)」によると、20歳以上の約7割が、睡眠に何らかの不満や問題を抱えているといいます[1]

睡眠の問題は昨日今日に始まったことではなく、厚生労働省は、「健康づくりのための睡眠指針」を2003年に作成、2014年には改訂版を発表し、さらに2024年2月には最新版を公開しました。日本睡眠学会も「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」内で《睡眠衛生》について言及しています[2]

睡眠衛生とは

《睡眠衛生》とは、睡眠の質や量を向上させるために実行できる、健康的な習慣・行動や知識のことです。
睡眠の問題の解消と予防には、睡眠衛生の改善が必要です。誤った睡眠衛生は、問題を強化・慢性化させる要因になります。

健康的な生活というと、多くの場合、真っ先に食事や運動が挙げられますが、睡眠はそれに負けず劣らず重要な健康の要素です。
最近の研究では、睡眠が十分でないと脳内に毒素が蓄積し、アルツハイマー病のリスクが高まると示されています。他にも、慢性的な不眠や睡眠不足によって、高血圧・不整脈・肥満・糖尿病などさまざまな疾患にかかるリスクが高まる恐れがあります。
不眠はうつ病などの精神疾患とも関係が深く、不十分な睡眠は健康の大敵です。

睡眠衛生を省みないことは、私たちの生活と睡眠の質を低下させ、睡眠の問題を生じさせます。睡眠衛生は、科学技術によって夜を失った現代社会と、生命が持つ健康的なリズムを橋渡しするための鍵であり、知恵の結晶といっても差し支えないでしょう。

それでは、「質の高い睡眠」とはどういうものでしょうか?

質の高い睡眠とは?

質の高い睡眠とは、端的には「ぐっすり眠ること」です。
私たちが睡眠について語る時は、睡眠時間を主に評価します。しかし、同じ時間眠っていても、その質によっては、良い睡眠とはいえない場合もあります。実際、たっぷり眠ったはずが「眠った気がしない」「疲れが取れない」など、よく眠れなかったという自覚があることも少なくないと思います。
睡眠の質は以下の要素で測ることができます。

  • 睡眠潜時:《睡眠潜時》とは寝床に入ってから寝付くまでの時間のことです。個人差がありますが、30分以上かかる場合は長すぎる可能性があります。
  • 入眠後の覚醒頻度と時間:夜間に何度も目が覚める場合や、起きている時間が長い場合は睡眠の質が低い可能性があります。
  • 睡眠効率:寝床にいる時間に対する睡眠時間の割合を《睡眠効率》といいます。睡眠効率が90%以上は非常に良好で、85%未満は睡眠効率が低いとみなされます。なお、睡眠効率が100%に近い場合は睡眠不足の可能性があります。

睡眠の質を下げる原因

睡眠の質は、さまざまな要因によって低下すると考えられます。
不規則なライフスタイルや睡眠習慣、睡眠環境、ストレスや不安、健康状態や心身の疾患、睡眠障害などが睡眠の質を落とす要因となり得ます。

質の低い睡眠の影響

質の低い睡眠は睡眠不足をもたらし、日中の眠気、仕事・学業のパフォーマンス低下、心身の健康リスクなどさまざまな影響を生じさせます。

睡眠の質を上げる、より良い睡眠衛生の9つのヒント

睡眠の質の向上には、寝床に入る前の準備が重要です。睡眠の質を上げ、睡眠衛生を改善するためのセルフケアとして、以下のヒントをお試しください。

1.睡眠時間にこだわりすぎない

必要な睡眠時間には個人差があり、加齢によって自然に短くなります。日中の活動に支障がないようなら、睡眠の長さにこだわる必要はありません。睡眠時間を意識しすぎると、かえって眠れなくなる可能性があります。
また、睡眠途中に目覚めること自体は別に珍しいことではありませんので、そのこと自体を強く問題視する必要もありません。

2.睡眠のリズムを毎日守る

仕事や勉強で忙しく、不足分を週末に取り戻す──忙しい人にありがちな習慣ですが、週末の寝坊を楽しみに(あるいは希望に)している人も少なくないのではないでしょうか。しかし、健康を考慮すると、たとえ週末でも昼前に起き出してくるのは歓迎できない習慣です。
私たちの身体は睡眠のリズムも体内時計の制御下にあるため、不規則な就寝・起床で健康的な睡眠を維持するのは困難です。

週末も含め、毎日同じ時間に眠り、毎日同じ時間に起きるようにしましょう。特に起床時間は体内時計のリセットにも関係するため、とても重要です。目覚めたらすぐに朝日を浴び、1日を開始しましょう。
夜の睡眠の準備は目覚めた瞬間から始まっています。

3.飲食物に注意する

食事は規則正しく、栄養バランスに注意して取りましょう。特定の疾患で必要など、特段の事情がない限り、極端な栄養バランスの食事は望ましくありません。
一日の食事の中でも朝食は特に重要です。
日中の活動を高めることは、夜の睡眠にとても大切です。そのためには炭水化物を中心とした朝食をしっかりと取り、エネルギーを補給しておく必要があります。

就寝前の空腹や満腹は、睡眠を取るには不適切な状態です。
就寝直前の重い食事は、消化器が活発に活動することでぐっすり眠れなくなる原因になります。夕食は就寝の3時間以上前までに終わらせるか、それが難しい場合は、脂っこい物は避け、消化の良い食事にしましょう。毎日決まった時間に食事を取ることで、体内時計で制御され消化の働きもよくなります。
小腹が空いて眠れそうにないときは、ぬるめの牛乳がおすすめです。体質的に牛乳が飲めない場合は、白湯や麦茶・ハーブティーなどでも良いでしょう。ポイントは、熱すぎない、冷たすぎない、カフェインを含まない飲み物です。
食べ物なら、ヨーグルト・チーズや果物などを少量取るのが良いでしょう。
いずれの場合も、就寝の30分前までに済ませておきましょう。食べ過ぎにも要注意です。空腹が眠りを妨げない程度にとどめ、しっかり食べるのは翌朝にしましょう。

4.日中に身体を動かす

質の高い睡眠を取るには、日中にしっかり活動しておくことが大切です。心身のほどよい疲労が脳や身体に休息を求めさせ、よく眠れるようになります。運動した夜にぐっすり眠れるということは、多くの方が体験されたことがあると思います。

デスクワークなど、ほとんど身体を動かさない人は、より一層意識して身体を動かすようにしましょう。運動習慣がない場合は、ウォーキング・軽いジョギング・ストレッチなどが始めやすいと思います。エレベーターやエスカレーターを使わない、一駅歩く、電車やバスで座らないなど、まずはできることから始めてください。

ただし、就寝直前の激しい運動は避けます。汗をかく以上の運動は、20時くらいまでに済ませましょう。遅い時間の運動は交感神経を刺激し、かえって睡眠に良くない影響があります。

5.昼寝をコントロールする

昼食後に眠くなる、というのはよくあることです。
昼食後の短時間の昼寝が、午前中に消耗したエネルギーと注意力を回復し、パフォーマンスを向上させることがわかっています。

ただし、長時間の昼寝はその後の活動と、夜の睡眠に良くない影響を与える可能性があります。30分以上の昼寝は深いノンレム睡眠に入っている可能性があり、スッキリ目覚めず、ぼんやりしてしまう原因になります。
夕方以降の昼寝も、夜の睡眠に良くない影響を与えます。また、寝床に入るような完全に眠る体勢も深い睡眠を誘発しやすいので、ソファに座る、机に突っ伏すなどが望ましいです。転落しないように注意してください。

昼寝は15時ころまでに、20~30分以内におさめるようにしましょう。昼寝に入る前にコーヒーを飲むなど、カフェインを摂取しておくのもおすすめです。ちょうど起きる頃にカフェインの影響が現れます。

6.入浴で身体を温める

入浴は就寝の2~3時間前までに済ませてください。40℃以下の少しぬるめの湯船にゆっくりつかるのが望ましいです。入浴時間は20~30分くらいが目安です。冬は湯冷めしないように気を付けてください。
42℃以上の熱いお湯は交感神経が活性化されて寝付きが悪くなる可能性があります。就寝までの時間が短い場合は特に気を付けてください。

7.就寝前の刺激物は避ける

アルコール、カフェイン、タバコ(ニコチン)などの刺激物にも注意が必要です。
就寝前のカフェイン摂取・飲酒・喫煙は、それぞれが持つ覚醒作用などの影響で睡眠の質を下げます。
特にカフェインの覚醒作用は強力で数時間持続するため、できれば夕方以降は控えましょう。カフェインはコーヒー・紅茶・緑茶・チョコレート・エナジードリンクなどに含まれます。
寝酒は入眠を促すことから適量なら良いと誤解されがちですが、実際には睡眠の質を下げ、不眠やアルコール依存症をもたらしかねない悪習です。寝酒の習慣は絶対にやめましょう。

8.快適な睡眠環境を確保する

睡眠環境も睡眠の質に大きな影響を与えます。特に寝室の「暗さ」「静けさ」「温度・湿度」は重要です。

  • 暗さ:光は覚醒を促すため、寝室が明るいと睡眠の質を下げます。とはいえ、暗闇に不安を感じる場合は、無理をして真っ暗にする必要はありません。照明を使う場合は、暗めの電球色のスタンドライトやフットライトを、光が直接目に入らない位置で使うと良いでしょう。
  • 静けさ:音も睡眠を妨げます。特に人の話し声には大きな覚醒作用があります。寝室ではテレビや音楽は消し、場合によっては耳栓などを使用するのも良いでしょう。
  • 温度と湿度:暑すぎたり寒すぎたりすることは、睡眠の質を悪化させます。寝苦しいのを我慢するよりも、エアコンをつけましょう。熱帯夜なら一晩中エアコンをつけたほうが良いです。ただし、風が体に直接当たらないように注意してください。
    寝室の温度の目安は、夏季は26℃、冬季は16~19℃、湿度は50~60%が望ましいとされています。
  • 寝具:寝具も大切です。
    マットレスや布団は必要以上に身体が沈みこまないもの、枕は自分に合うものを使いましょう。睡眠中は体温調節のために汗をかくので、布団や寝間着は湿気がこもらないものを選びましょう。

9.眠気以外を寝床に持ち込まない

眠気を感じてから寝床に入り、目が覚めたらすぐに寝床から出ましょう。
眠くないのに寝床に入ってはいけません。普段の就寝の2~4時間前が最も眠れない時間帯なので、例えば普段23時に寝ている人が急に20時に寝ようとしてもまず眠れません。
眠れないときに寝床にしがみつくのは良くない習慣です。20分以上眠れない場合は寝床から抜け出して、リラックスできることをしながら眠気を待ちましょう。

就寝前のリラックスのための時間(本を読んだり、音楽を聴いたり)は、寝床の外で過ごしましょう。できれば寝室の外、別室が望ましいです。寝床は性行為と眠るためだけに使いましょう。特に睡眠の問題を感じているような場合はなおさらです。

スマートフォンは眠りの大敵ですから、寝床に持ち込んではいけません。目覚ましにはアラーム機能ではなく、目覚まし時計を使いましょう。スマートフォンに限らず、タブレットもパソコンもテレビも、電子機器は全て同じで寝床に持ち込まないようにしましょう。
なお、時計はすぐ目に入る位置には置かないでください。時間が気になって眠れなくなることがあります。

今日の後悔や明日の心配も、寝床の外に置いておきましょう。
ぐるぐると思い悩んでいる状態では、目を閉じて静かに過ごしても、眠くならないどころか寝床で悩むことが習慣化する恐れがあります。
心配ごとや悩みごとは、夕食前などに紙に書き出しておきましょう。

セルフケアで対処できない場合は医師に相談を

睡眠の問題も、他の多くの問題と同じように、自分一人で解決することにこだわる必要はありません。上に挙げたセルフケアはあくまで一般的なヒントであり、誰にでも常に当てはまるというものではありません。実際に不眠症やうつ病などを発症した際の治療時には、個人の状態に合わせた指導が行われます。

睡眠の問題が悪化する、長期化する、日中の活動に悪影響が出る、睡眠以外にも問題が発生しているような場合は、医師に相談してください。睡眠障害はうつ病などの他の精神疾患を合併していることも多いことから、精神科・心療内科で診察しています。

まとめ

20歳以上の日本人の約7割が、睡眠に何らかの不満や問題を抱えているといいます。
睡眠の問題はさまざまな疾患のリスクもあるため、睡眠の質を高めるためにも睡眠衛生の改善が必要です。具体的には以下のような対策が挙げられます。

  1. 睡眠時間にこだわりすぎない
  2. 睡眠のリズムを毎日守る
  3. 飲食物に注意する
  4. 日中に身体を動かす
  5. 昼寝をコントロールする
  6. 入浴で身体を温める
  7. 就寝前の刺激物は避ける
  8. 快適な睡眠環境を確保する
  9. 眠気以外を寝床に持ち込まない

これらの対処で問題が解決できない場合は、医師に相談してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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