ストレスが限界に達した時に出る症状とは?
お気に入りのカップを割ってとてもつらい。
発注ミスに気付いて眠れない。
満員電車でつま先を踏まれて痛い。
ホラー映画の効果音に心臓が跳ね上がる。
このような経験は誰にでもあることですが、このようなとき、私たちの心と身体はストレスに反応しています。ストレスに対する自動的反応は、捕食者を始めとしたさまざまな脅威から身を守るために、ヒトになる前の古代から先祖が発達させてきたものです。危機に直面すると身体は戦闘モードになり、命がけで闘うか、必死に逃げる準備を整えます。
現代社会では、食べられてしまうという脅威に直面することはめったにありませんが、代わりに締め切りや請求書、上司のような、闘うことも逃げ出すことも困難な脅威にさらされ続けます。かといって、これらの脅威に対し、単に我慢すればよいというものでもありません。
どんな人にも限界は訪れます。限界が訪れたとき、私たちは身体と心に変調をきたし、ときに病気になってしまいます。
この記事では、一般的なストレスの症状や、ストレスが限界に達した時の症状や疾患について解説します。
ストレスとは?
《ストレス》とは、外部からの刺激で身体に生じる反応のことで、このストレスの原因となる外的な刺激を《ストレッサー》といいます。一般的に日常会話では、これらのストレスとストレッサーを区別することなく「ストレス」の一言で表現しています。例えば「仕事のストレスで胃が痛くなる」という場合、「胃が痛い」のがストレスで、「仕事(のプレッシャーなど)」がストレッサーにあたります。
ストレスの感じ方や反応は大きな個人差があります。これは、気質・体質的なものだけではなく、考え方やその日の体調などいろいろなものに影響されます。
例えば、犬を家族のように思っている人にとっては、犬がのしかかってきても愛らしいだけでしょうが、過去に犬にかまれたり追いかけられたりして犬が苦手な人にとっては、接近してくる犬も、吠え立てる犬も、じゃれついてくる犬も、のしかかってくる犬も、いずれも恐怖の対象になりえます。
なお、すべてのストレスが有害というわけではありません。適度なストレスは私たちの成長をうながし、生活を充実させます。
急性ストレスと慢性ストレス
ストレスの分類方法にはさまざまな切り口がありますが、ここでは《急性ストレス》と《慢性ストレス》について取り扱います。
急性ストレス
《急性ストレス》は、誰もがときどき経験する、一過性のストレスです。
急性ストレスはネガティブな体験、ポジティブな体験、どちらの体験によっても引き起こされる可能性があります。
例えば、以下のようなとき、あなたの身体は急性ストレスにさらされています。
- 発注ミスに気付いて胃が痛い。
- お気に入りのカップを落として割ってしまった。
- 背後からの声に口から心臓が飛び出る。
- トイレに紙が無くてため息をつく。
- 左右の端に残ったボウリングのピンを狙う。
- ホラー映画の効果音にびっくりして手の中のジュースを取り落とす。
- ジェットコースターで内臓が浮く。
- 近所の犬に吠えられる。
- 満員電車でつま先を踏まれる。
動物(人間も動物です)は、外敵や危険が自分の身を脅かす非常時には、防衛システムを起動することで生き残りをはかります。より素早く、より力強く動くために、筋肉が緊張状態になります。筋肉が多くのエネルギーを確保できるように、血糖値を上昇させ、脂肪の燃焼を促進します。酸素も必要なので、気管支が拡張し、呼吸は早くなります。
これらを筋肉に送り届けるため、心拍数と血圧を上昇させます。
これらの反応は《闘争逃走反応》と呼ばれ、危機に直面したときに、その状況を脱出するための緊急的な反応です。私たちの先祖が草原を走り回っていたころ、猛獣に遭遇したときは、闘って倒すか、一目散に逃げるか、猛獣のディナーになるかの選択肢しかありませんでした。
この生死をかけた緊張状態は一時的なものであり、脅威が去ればスイッチは切られます。
この急性ストレスに対する反応は正常な反応で、ほとんどの場合は急性ストレスが健康を損なうことはありません。
慢性ストレス
現代社会では、猛獣のエサになるという危険に直面することはめったにありませんが、締め切りや請求書、上司のような、闘争や逃走では切り抜けられない脅威にさらされることはよくあります。毎日のようにさらされ続けます。
《慢性ストレス》は、数週間から数カ月という長期にわたって続くストレスです。長期間続く長時間労働、職場や家庭内での不和、借金などの経済的な問題、近所の騒音問題など、一朝一夕には解決できない問題が慢性ストレスにつながりやすいでしょう。
慢性ストレスは健康面の問題を引き起こす可能性が高く、適切な対処が必要です。
慢性ストレスの兆候と症状
慢性的なストレスが続くと、身体や精神、行動にその影響が現れます。以下のような症状がある場合には適切な対処が必要です。これらの症状が長期間続き、日常生活に支障をきたしている場合は医療機関に相談してください。
身体面の症状
慢性ストレスによる身体的な症状には以下のようなものがあります。
- 不眠や睡眠不足、日中の眠気
- 身体の痛み(頭痛、肩こり、背中の痛みなど)
- 動悸・息切れ
- めまい
- 疲労感・倦怠感
- 胃腸の不調(下痢・便秘・吐き気など)
- 免疫力の低下(風邪やインフルエンザなどにかかりやすくなる)
- 性欲・性機能の低下
- 高血圧
精神面の症状
慢性ストレスによる精神的な症状には以下のようなものがあります。
- 悲しみや落ち込み
- 情緒不安定になる(不機嫌、怒り、突然涙が出るなど)
- 強い緊張感、常にプレッシャーを感じる
- 頭にこびりついた不安や心配、イライラ感
- そわそわして落ち着かない
- 判断力・記憶力の低下
- やる気・集中力が失われる
- 否定的な思考、悲観的になる
- ひきこもり、人付き合いを避ける
- パニック発作
行動面の症状
慢性ストレスによる行動面の症状には以下のようなものがあります。
- 飲酒・喫煙、薬物の乱用
- 暴飲暴食、食事を取らない
- ギャンブル
- 衝動的な行為をする(散財など)
- 危険な行為をする(乱暴な運転など)
- ひきこもり、人付き合いを避ける
ストレスが限界に達した時に出る症状や疾患
「キラーストレス」という言葉があります。医学や心理学の専門用語ではなく、マスメディアが用いる言葉ですが、心身をむしばみ、命を脅かすストレスを命名したものです。実際、慢性ストレスは時に命にかかわる重病を引き起こすことがあります。
以下は、慢性ストレスが限界時に引き起こすさまざまな症状や疾患です。
- うつ病、不安症、アルコール依存症などの精神疾患
- 狭心症、心筋梗塞、不整脈、心不全などの心血管疾患
- 肥満や摂食障害
- 男性の勃起不全や早漏、男女の性欲減退などの性機能障害
- ニキビ、乾癬、湿疹、永久脱毛などの皮膚や髪のトラブル
- 胃食道逆流症、胃炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群などの胃腸障害
ストレスとうまく付き合うために
我慢する、というのはストレスに対して一般に選ばれがちな対処法です。もちろん、我慢してやり過ごすことが必要な場面は日常では珍しくありません。しかし、すべてのストレスを我慢してやりすごすというのは現実的ではありませんし、メンタルの負担も相当なものになります。
かといって、私たちの生活からストレスを完全になくすことも、すべてのストレスを避けることも不可能です。大切なのは、ストレスとどのように付き合っていくかであり、ライフスタイルの見直しは、そのためのストレス対策の基本です。自分にあったストレス対策を見つけてください。
- 質の良い睡眠を十分にとる:規則正しい生活は、就寝時間と起床時間を毎日守ることが基本です。起床時間を守ることは特に重要です。質の良い睡眠を十分にとりましょう。目が覚めたら、まず朝日を浴びてください。
- 身体を動かす:適度に運動することで、夜の寝つきがよくなります。また、適度な運動がメンタル改善に役立つことが分かっています。
- 栄養バランスの良い食事をとる:栄養バランスを考えた食事を、毎日3回、決まった時間にとりましょう。朝食が特に重要です。
- リラックスできる時間を過ごす:ゆっくり入浴する、読書する、音楽を聴く、趣味を楽しむなどのリラックスできる時間を過ごすことは、ストレスの解消に有用です。
以下の記事で、ストレスの解消・発散方法を紹介しています。併せてご覧ください。
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精神科医がおすすめするストレス解消・発散方法、16個のヒント
ストレス社会とも呼ばれる現代、ストレス解消・発散方法を知り、実践することは、健康で充実した生活を送るために大切なことです。ストレスからうつ病などを発症しないためにも、今日からでも始められる簡単な方法を中心に、ストレスの対処法を解説します。
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いつ医療機関にかかるべきか?
ストレスを感じるからといって、必ずしも医師にかかる必要はありません。
しかし、次のような場合は医師に相談する必要があります。
- ストレスのコントロールができず、対応不能である
- 数週間ストレスの影響が抜けず、むしろ悪化している
- ストレス解消のために、飲酒や喫煙など健康を損ねる方法に頼りたいと感じる
- 仕事や勉強のパフォーマンスが落ちた
- 自分自身や他人を傷つけることを考える
ストレスとうつ病
うつ病は非常にありふれた精神疾患で、ストレス過剰な状態が続くと、発症や悪化のリスクが高まります。もし、気分が落ち込み、楽しかった趣味が楽しめず、よく眠れない、食欲がわかないなどの症状が数週間続いているような場合はうつ病を発症している可能性があります。
うつ病は早期発見・早期治療が重要です。うつ病かどうか不安な場合は、セルフチェックの結果に関係なく、精神科・心療内科にご相談ください。
まとめ
《ストレス》とは、外部からの刺激で身体に生じる反応のことで、このストレスの原因となる外的な刺激を《ストレッサー》といいます。この2つは日常会話ではあまり区別せずに「ストレス」の一言で表現されています。ストレスの感じ方や反応は大きな個人差があります。気質・体質的、考え方や体調などいろいろなものに左右されます。
《急性ストレス》は、誰もがときどき経験する、一過性のストレスのことです。急性ストレスに対する反応は正常な反応で、急性ストレスによって健康を損なうことはほとんどありません。
《慢性ストレス》は、数週間から数カ月以上の長期間続くストレスです。慢性ストレスは、身体や精神、行動に影響を与えます。慢性ストレス場合には、「質の良い睡眠を十分にとる」「身体を動かす」「栄養バランスの良い食事をとる」「リラックスできる時間を過ごす」などの適切な対処が必要です。
ストレスの症状が長期間続き、日常生活に支障が出ているようなら医療機関にご相談ください。特に気分が落ち込み、楽しかった趣味が楽しめず、よく眠れない、食欲がわかないなどの症状が数週間続いているような場合はうつ病を発症している可能性があります。精神科・心療内科を受診してください。
品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。