家族がうつ病になった時の乗り越え方

うつ病は、現代社会で多くの人々が抱える心の病の一つです。家族の誰かがうつ病になると、その影響は家族全体に及びます。家族として何をすべきか、どのようにうつ病患者と向き合えばよいかを理解することが大切です。特に、うつ病の対応の仕方を知ることが、家族全体が共倒れせずに支援し続けるための重要なポイントです。

この記事は、家族がうつ病になった時の対処法や向き合い方を具体的に解説していきます。
なお、この記事は、すでにご家族がうつ病と診断された方を読者として想定しています。まだうつ病の診断はされていないものの「家族やパートナーがうつ病かな?」と感じていらっしゃる場合は、まず下記のページをご覧ください。

うつ病へのご家族やパートナーの気づき

家族の誰かがうつ病になることはめずらしいことではありません

うつ病は気分障害(気分の浮き沈みによって日常生活を送ることのできなくなる心の病気)の一種であり、近年増加の一途を辿っています。厚生労働省の調査によると、精神疾患を有する外来患者数の推移を比較した際に、躁うつ病を含む気分障害は平成14年から平成29年までの15年間で1.8倍にもなっています。

現代を生きる私たちにとって、うつ病はより身近なものになっており、いつ・誰がなっても不思議ではなく、みなさんの子どもや両親、兄弟など、家族も例外ではありません。

家族によるサポートの重要性

家族は、うつ病を抱えた人にとって非常に大きな支えとなります。うつ病になると、孤独感や無力感が強まり、日常生活での行動が制限されることが多いです。このような状態では、支援の手が差し伸べられなければ、症状が悪化するリスクも高まります。しかし、サポートの仕方を誤ると、逆に負担やストレスを増やしてしまうこともあります。どのような場面で家族関係がサポートになり、どのような行動が逆効果となるのかを学ぶことが必要です。

医師である中嶋泰憲氏はうつ病患者が陥りやすい点として病識を持てないことを挙げています。うつ病になると自責の念が強くなり、さまざまなことに対して「自分がいけないんだ」「自分が悪い」と感じるようになります。自責の念が強まるにつれて自殺願望が生まれてくる可能性が高くなってしまいます。「自分が悪い。そんな自分なんて死んだ方がマシ」という考えに陥っている中で、「もしかしたら自分はうつ病なのでは」と認識するのは難しいのです。

自殺や重症化を防ぐためには、いち早く異変に気付き医療機関へ受診する必要がありますが、上記の通り本人だけでは「自分が病気だ」と気づくことができません。そこで必要なのが第三者、特に家族からの働きかけです。

家族がうつ病を受け入れる3段階

家族からの働きかけの第一歩として「うつ病を受け入れる」ことから始まります。うつ病患者にうつ病であることを受け入れてもらう前に、自分たちがうつ病を受け入れなければなりません。しかしこれはそう簡単なことではなく、時間がかかってしまいます。

木村洋子氏と上平悦子氏は自身の行った研究結果から、家族のうつ病に対する認識は以下の3段階に分けられるとしています。

  • ①【うつ病だと思いたくない段階】
  • ②【うつ病であることを消極的ながら受け入れる段階】
  • ③【治療に対して積極的に受け入れる段階】

①うつ病だと思いたくない段階

うつ病だと思いたくない段階では、家族の変化に対する気づきはあったものの、もともとの性格や仕事の忙しさによるものだと思いそのままにしてしまいます。この段階では、少しでも違和感を覚えたら、まずはうつ病について興味を持ち、特徴や症状について正しく理解することが重要です。

うつ病へのご家族やパートナーの気づき

②うつ病であることを消極的ながら受け入れる段階

徐々に「やっぱり何かおかしいぞ」といった確信に近づくにつれて、「②うつ病であることを消極的ながら受け入れる段階」に進んでいきます。しかし、家族自身が持つうつ病に対しての否定的なイメージや世間体の悪さから周囲に相談できない、だけど症状は日に日に強くなっているという葛藤を抱えてしまうことも多い段階です。
この段階で大事なのは、うつ病が珍しいものではなく、非常に多くの人が経験しうる病気だと理解することです。

③治療を積極的に受け入れる段階

最後の「③治療を積極的に受け入れる段階」では、自殺念慮や自殺企図(死にたいという気持ち)など、衝撃的な状況を体験することでうつ病であるという事実を受け止め、うつ病や治療に対する認識の変化を経験していくとしています。もちろん、必ずしも衝撃的な大変をしなければいけないわけではありません。うつ病やうつ病患者、その治療方法等についての理解を深めることで、積極的に家族のうつ病治療に関わることができるようにもなります。

また、原田由香氏らの研究では「③治療に対して積極的に受け入れる段階」の先に

  • ④【うつが快復に向かっているという実感】を体験し、
  • ⑤【肯定的に捉えようとする家族のうつ病体験】があるとしています。

うつ病によって家族間に隔たりや不協和音をもたらすなど、ネガティブな影響を与えることは事実ですが、その一方で、うつ病をきっかけにまとまった時間を過ごすことで親子間の不満について話し合うことができ、しこりとしてあったものが改善するというプラスの影響をもたらすとしています。

このようなプロセスを経て家族がうつ病を「家族一丸となって取り組むべき課題」と受け入れることで、肯定的な方向にとらえていくことでうつ病者の予後も回復傾向に向かいやすいことが示されています。

うつ病になった人が家族との関わりで感じるストレス

うつ病になった人は、家族との関わりで大きなストレスを感じることがあります。家族の善意や心配が、時に患者にとって負担となり、逆効果となることも少なくありません。特に、周囲からの期待や無理な励ましが、患者の症状を悪化させる場合があります。家族としては、患者が感じるストレスの原因を理解し、適切な対応を心がけることが求められます。

励ましや期待が逆効果になる理由

うつ病患者に対して、「頑張って」と励ましたり、「早く元気になってほしい」と期待する言葉は、一見前向きなサポートに思えるかもしれません。しかし、うつ病になるとそのような励ましが重圧となり、「自分は期待に応えられない」と感じてしまうことがあります。このため、家族は無理に励ましや期待を押し付けるのではなく、相手のペースに合わせて対応することが大切です。

家族からの無意識なプレッシャー

家族がうつ病患者を支援しようとする気持ちは強くても、無意識のうちにプレッシャーをかけてしまうことがあります。例えば、早く回復してほしいという思いが、患者に「何かしなければならない」というプレッシャーを与えることがあります。また、普段の生活に戻ることが難しいと感じるうつ病患者にとって、日常生活の要求が重く感じることも少なくありません。家族としては、無意識のプレッシャーを避け、相手の気持ちを尊重した対応が重要です。

家族の具体的な悩み

うつ病患者を看護した経験のある家族へのインタビューを通した調査では、家族は「うつ病になる前となった後の言動のギャップに疲れる」「些細なことでもネガティブなことに捉えられ攻撃されてしまう」「気分の波が激しい」「主治医と満足に情報交換ができない」「アドバイスが受けられないこと」に困難さを感じていることが分かりました。

うつ病患者の家族の気持ちが理解できないときの対応方法

うつ病患者の心の状態は外からは見えにくいため、家族がその気持ちを理解するのは容易ではありません。たとえ患者が「ひとりになりたい」と言っても、家族はその理由や背景を完全に理解できないことがあります。このような時は、無理に理由を問いたださず、相手の言葉を尊重することが大切です。理解できなくても、受け入れる姿勢を持つことが、患者にとって安心感を与えます。

うつ病の家族と関わる際の注意点

うつ病の家族と関わる際には、いくつかの注意点があります。家族がどれだけ支援したいと思っていても、適切な関わり方をしなければ、患者にとって逆効果となることがあります。うつ病は非常にデリケートな精神疾患であるため、家族が正しい対応を理解し、無理のない範囲でサポートを続けることが求められます。以下では、具体的な注意点を紹介します。

無理に外出させない

うつ病の人は、外出や日常的な活動が困難になることが多いです。そのため、家族が「気分転換に出かけよう」と無理に誘うことは、かえってストレスや負担を増やす原因となります。患者が外出できる状態になるまでは、無理に外出を促すのではなく、家の中でリラックスできる環境を整えてあげることが大切です。

過度な励ましを避ける

「元気を出して」「頑張って」などの言葉は、うつ病患者にとっては逆効果となる場合があります。これらの言葉は、本人にプレッシャーを与え、自己否定感を強めてしまうことがあります。家族としては、励ますことよりも、そっと寄り添い、相手が話したいときに話を聞く姿勢を持つことが大切です。言葉よりも行動で支え、無理に元気を引き出そうとしないことが重要です。

ストレスを感じてしまうときの対処方法

家族の中で誰かがうつ病になると、サポートにあたる家族全員が精神的・肉体的に疲弊する可能性があります。特に、家族の一人が過剰な負担を背負うと、ストレスでその人自身が共倒れの状態になることもあります。このような場合は、家族全員で分担して対応し、無理をしないことが重要です。また、定期的に専門家に相談し、客観的なアドバイスを受けることで、家族全体の負担を軽減することができます。
その他、下記のような対応方法も検討してみてください。

うつ病による記憶力の低下、注意力の低下を補完する

それまでどんなにしっかりした人でも、うつ病になると認知機能の低下がみられ、物忘れが多くなり、約束や決まり事を忘れてしまうことで、トラブルとなってしまいます。その際には、スマートフォンのカレンダーアプリを共有する、リマインド機能を活用する、などの対策をとることで、記憶力を補うことができたという事例や、音声認識機能を使用し、重要事項をテキストとしていつでも見返せるようにすることで、トラブルが減ったという事例もあります。

SNSなどのコミュニティや、似た境遇の人が集まるグループに参加する

親族や支援者に気軽に相談しにくいことについては、Twitter等のSNS上で自分たち家族と似たような境遇を持つ人とつながる、グループに参加するなど、治療経過や困りごとの共有や情報収集を行うことでストレスが緩和した例もあります。

SNS上でつながることで、「家族だけでなんとかしなければ」という孤立感が薄まり、「苦しんでいるのは自分達だけじゃないんだ」と救われた気持ちになります。また、匿名性があるため、家族の本音をうつ病患者に知られることがないことも大切な要因であるとされています。

しかし、SNSなどインターネット上の情報が必ずしも正しいとは限りません。根拠のはっきりしない商品が誇大な広告で宣伝され、購入者との間でトラブルになっている話は珍しくないでしょう。

また、病気の当事者の話が、自分たちには当てはまらないということはよくあります。家族が置かれている状況や環境を踏まえたうえで情報を取捨選択していく必要があります。

最後に

厚生労働省は、“共に生活している家族だからこそ気付けることもある”とし、「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」を開設しています。うつ病の症状をはじめ、各種相談窓口などが詳しく紹介されています。

うつ病に対して「甘え」「根性と気合で何とかできる」と考えがちの人もいまだにいますが、それは間違いです。うつ病は病気であり、気の持ちようで何とかなるものではありません。このことをまずは家族がしっかりと意識し、治療に向けてともに歩いていくことが大切です。回復するにつれ、徐々に病気であると正しく認識できるようになりますので、そうなった時に「どうしたらうつ病とうまく付き合っていけるか」をともに考え、支えていくことが必要なのです。

うつ病は専門的な治療が必要な精神疾患です。家族がどれだけ支援したいと思っていても、限界があります。心療内科や精神科で専門家のアドバイスを受けることは、家族の負担軽減にもつながります。また、治療方針や対応方法についての知識を得ることで、患者にとって最適なサポートが可能になります。家族全体が前向きに回復の道を歩むためにも、専門家の力を借りることをためらわないようにしましょう。

参考:

原田由香・吉野淳一・澤田いずみ(2018)「うつ病が患者の家族にもたらす影響とその対処について:うつ病を有する子どもをもつ親の語りから」,『札幌保健科学雑誌』, 7, 11-17

山下直美・葛岡英明・平田圭二・工藤喬(2014)「うつ病患者の家族看護者が抱える社会的負担を構成する要素の解明」, 『情報処理学会論文誌』, 55(7), 1706-1715

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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