心と身体の不調のサイン、それはうつ病の初期症状かも

夜中に何度も目が覚めたり、どうしようもない悲しみやむなしさに襲われたり、身体に痛みを感じたり、わけもなく涙が出たり──もしかするとそれらの症状は、うつ病の兆候(サイン)かもしれません。
うつ病は、気分の落ち込みや興味・関心の喪失のような精神症状と、不眠・食欲の変化や身体のだるさのような身体症状など、さまざまな症状を引き起こす精神疾患です。

この記事では、うつ病のサインとなる、初期に現れやすい症状とその対処法を解説します。

うつ病はどんな病気?

嫌な出来事に悲しみや苦しさを感じ、気分が晴れず、気持ちが暗く沈むということは誰にでもあることです。多くの場合は、問題の解決や、時間の経過、気晴らしなどによってそのつらい気持ちが薄れ、日常に戻ることができます。しかし、その苦痛が一日中、毎日、長期間続き、日常生活に支障をきたすようなら、《うつ病》の可能性があります。
うつ病は、気分の落ち込みや興味・関心の喪失、自責感、自己評価の低下のような精神症状に加え、不眠・食欲の変化・身体のだるさのような身体症状など、さまざまな症状を引き起こす可能性がある精神疾患です。

うつ病の初期症状、11の兆候(サイン)

うつ病の初期段階には以下のような症状がよくみられます。これらの症状が一日中、ほとんど毎日続いているような場合は、うつ病を発症している可能性があります。
また、うつ病になりかけのときに、その予兆としてこれらの症状が現れる可能性もあります。

1.睡眠の異変

寝付きが悪くなったり(入眠困難)、夜中に目覚めた後に眠れなくなったり(中途覚醒)、あるいは起床予定の何時間も前に目覚めてしまったり(早朝覚醒)という不眠は、うつ病でよく見られる初期症状です。朝早くに目覚める《早朝覚醒》は、うつ病に特徴的な症状の1つです。
逆にいくら眠っても眠気も疲れも取れず、いくらでも寝てしまう過眠になる場合もあります。

2.食欲や体重の異変

食欲が減退し、空腹を感じても食べようという気持ちが湧かなくなります。無理矢理に胃に詰め込むことはできますが、好物さえもおいしいと感じられず、味も分からない、ということもあります。食事量が減るので目に見えて痩せてきます。
逆に食欲が増して食事量が増え、体重が増加することもあります。

3.活動に対する興味や喜びが消える

熱中していた趣味が楽しめなくなったり、テレビや新聞を見なくなったり、人付き合いを避けたりなど、さまざまなことへの興味や関心が失われます。
子供やペットがかわいいと思えなくなったり、性欲が失われたりということもよくあります。

4.気分が沈み、悲しみやむなしさにとらわれる

悲しみやむなしさを常に感じ、幸せを感じることがありません。にぎやかな場所にいても、孤独を感じ気持ちが沈む一方です。表情が暗く、肩を落とし、うつむきがちで、猫背気味になっていることもあります。なぜ落ち込むのか理由がよく分からないということが多々あります。

5.頭が働かず、ミスが増えた

仕事や勉強に集中できずミスが増えます。本や新聞を読んでも頭に入ってきません。成績が急激に落ちるかもしれません。判断力や決断力が鈍り、優柔不断で「今日の夕食はどうする?」程度の決断すら簡単にはできなくなります。

6.落ち着かず、イライラする

落ち着きがなく、イライラと攻撃的になることがあります。気難しく、短気になります。特に男性や若年層のうつ病でこの傾向が強くなります。

7.罪悪感・無力感・無価値観

悲観的で、何でもかんでも「自分が悪かった」「迷惑をかけている」と自分を責め、「もうどうにもできない」「自分には価値が無い」と絶望感を抱くようになります。ぐるぐると悲観的な考えに支配され、それ以上考えることができなくなります。

8.涙もろくなった

うつ病では、ささいなことで泣くようになった、なぜ泣いているのかも分からない、涙が止まらないということがあります。
涙もろさは軽度のうつ病でよく見られますが、重度のうつ病では、泣くことを含めた感情表現全般が難しくなることがよくあります。

9.体のだるさ・倦怠感

疲れ果てて元気がなく、朝に布団から抜け出すのもつらいと感じます。身体を動かすのもおっくうで、動きが緩慢になります。歯磨きや入浴、トイレのような普通ならなんでもないようなことにすら、ため息がもれるほど疲れてしまいます。
これらの行動に必要性を感じながらも活力が湧かずにできなくなっています。以前はできていた普通の行動が、本人にとってはとても疲れる行動になり、結果としてできなくなるというわけです。

10.原因のはっきりしない痛みや身体症状

頭、背中や腰など体の節々が痛むようになります。他にも、肩こり、めまいや、下痢・便秘などの消化器の異常など、身体のあちこちに不調が出ることもよくあります。
これらの身体症状が先に出ることも珍しくありませんが、その場合に検査をしても異常が見つかりません。

11.自殺願望・自殺未遂

うつ病の人は、つらさから逃れて楽になりたい、消えてしまいたい、死にたい、と考えるようになります。人生の終焉について考え、身辺を整理しだすこともあります。
直接的に死について口にすることもありますし、自分自身がいなくなった世界について語ることもあります。そういう考えを口にせず、ただ黙って暗い顔をしている場合もあります。
ただし、自殺を考える人は本心から「死にたい」わけではありません。死ぬことは終わるための手段であって、目的ではありません。苦しみから逃れたい、生きていることで迷惑をかけている、生きている価値が無い、という考えに支配されてしまっているのです。

うつ病の初期症状の期間

落ち込んだり、気持ちが沈んだりということは、誰にでも起こることで珍しいことではありません。大抵は長くても数日で自然に落ち着き薄れていきます。しかし、前述のような症状が複数、毎日、2週間以上続いているような場合はうつ病の可能性があります。
「これくらいの症状で病院に行ってもいいのかな……」と気になる方は、セルフチェックを試してみてください。

いつ医療機関にかかるべきか?

うつ病は心身が不調を訴え、悲鳴を上げている状態です。
一般に、うつ病は治療開始が遅れるほど回復にも時間がかかるため、うつ病の改善には早期発見と早期治療が大切です。時間の経過はうつ病を深刻化させる要因になります。
症状が2週間以上続き、日常生活に支障をきたしている場合は、すぐに受診してください。早期に対処することで、治療も短期間で済む可能性があります。

「うつ病になりかけかな?」と心配な場合も、うつ病の発症をわざわざ待つ必要はありません。なりかけの初期症状のうちに適切な対処ができれば、本格的な発症や悪化を回避できる可能性があります。受診の結果、仮に治療が必要なほどではなかったとしても、それであなたの心配事が1つ解消することになります。
「もしかしてうつ病かな?」と心配が消えない場合も、精神科・心療内科を受診してください。

うつ病の初期症状への対処

うつ病のなりかけや初期の軽い症状の時期は、生活習慣を見直したり、休息したりすることで本格的な発症や悪化を防ぐことができる可能性があります。

  • 休息する:ストレスに満ちた環境から一時的に避難し休息をとることは、心を休ませエネルギー補給できます。
  • 規則正しい生活を送る:健康の基礎は規則正しい生活です。規則正しい生活の基本は、就寝時間と起床時間を毎日守ることです。睡眠のリズムを守ることが快適な睡眠には重要です。特に起床時間は重要です。十分な睡眠をとり、目が覚めたら、朝日を浴びて1日をスタートしましょう。
  • 健康的な食事を取る:栄養バランスを考えたおいしい食事を、毎日3回、決まった時間に食べることは健康的な心身の基礎となります。特に朝食が重要です。
  • 身体を動かす:身体を動かすことは、ストレス予防や解消に大切な習慣です。適度な運動は夜の寝つきをよくするほか、メンタルの改善にも役立ちます。
  • ストレスを管理する:ストレスをためすぎないように、定期的にストレスを解消しましょう。読書をする、音楽を聴く、趣味に打ち込む、自然と触れ合うなどはストレス解消に効果的です。

これらは本来、セルフケアとして日々の生活に取り入れることでより効果を期待できます。本格的にうつ病を発症してしまうと、専門的な治療なしでの解決は難しくなります。

まとめ

うつ病の初期には、睡眠や食欲・体重に異変が起こる、何も楽しめない、気分が沈む、イライラする、疲れが取れない、などのいろいろな症状が心身に現れます。このような症状が毎日、2週間以上続くような場合はうつ病が疑われます。
診察の結果「うつ病じゃなかった」としても、心配事が1つ減るわけですから、「うつ病かも」と心配な場合は、まずは医療機関にご相談ください。初期症状のうちに適切な対処ができれば、本格的な発症や悪化を回避できる可能性もあります。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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