大人の発達障害とは? 症状の特徴や対応方法について
大人の発達障害とは
大人の発達障害とは、度重なる不注意などによって、仕事や家庭にトラブルを招きやすい状態のことをいいます。
以前は、知的障害を伴う、幼少期に診断される症状を発達障害と呼んでいました。最近の研究では、必ずしも知的障害が伴うわけではないとわかっており、大人になってから環境の変化をきっかけに気づくケースも少なくありません。
大人の発達障害の症状の特徴
診断された年齢は関係なく、発達障害は生まれつきの特性です。
先天的に脳の発達がアンバランスなため、小さいころから行動や感情面で問題が起こりやすかった傾向にあります。
日常生活が送りにくい一方で、特定のことには優れた能力を発揮する場合もあります。しかし、得意なことと苦手なこととの差が極端に大きいため、生活に支障が出やすいのです。
また、こうした特徴は子どもであれば、小さな失敗や落ち着かない様子も「子どもだから仕方ない」「いろんなものに興味がある年齢」と個性や性格に捉えられるでしょう。ですが、大人になると「いい加減」「やる気がない」「役に立たない」といった評価に変わってしまいやすくなります。
特に仕事では、発達障害が壁となるケースが多く、本人にも周囲の人にもさまざまな葛藤を抱えさせています。
【実例】発達障害の人の葛藤
- 仕事の優先順位がわからなくて、効率よく仕事を進められない
- 一生懸命考えて指示された仕事をしたつもりでも、いつも「指示したことができてない。他のことはやらなくていいから、これだけ急いでやるように」と怒られる
- 人とうまく話せなくて商談はおろか、社内でも「空気を読めない」と敬遠される
【実例】周囲の人の葛藤
- プロジェクトの進行予定表を作るように指示したら、いつまで経っても出てこない
- 急ぎの資料作成を頼んだけど、あまり重要ではないことにこだわっていたようで、客先への提出に間に合わなかった
- 人とうまく話せなくて商談はおろか、社内でも「空気を読めない」と敬遠される
周囲の人からすれば、対等な社会人として見ているからこそ理解ができず、発達障害の人からすれば、努力が報われない虚しさ、もうしわけなさ、劣等感などでいっぱいになっています。
決してどちらも悪いわけではありませんが、うまくいかないことにイライラしたり、大声を出してしまったりという場面も増えがちです。
この息苦しさの原因は、「お互いを理解できないもどかしさ」が多くを占めています。本人も周囲の人も発達障害の特徴をしっかり学び、「発達障害とは」を深く理解していくことで、お互いにうまく付き合っていく方法が見えてくるでしょう。
発達障害にはいくつかの種類があり、その特性も少しずつ違います。
それぞれの発達障害について、詳しく解説していきます。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)
注意欠陥・多動性障害(以下、ADHD)は、不注意、多動性、衝動性の3つの特徴に分けられます。
ADHDは、子どものころは多動性が目立ちやすく、大人になるにつれ不注意が目立ちやすくなる傾向があります。
感情のコントロールも苦手で、職場や家庭内での衝動的な暴言が目立ったり、暴力に訴えてしまうことも決して少なくないでしょう。
好きなことには過度な集中、のめり込み傾向があるため、大人になるほどアルコールや薬物、買い物、ギャンブル(日本では特にパチンコ)などへの依存がたびたび問題視されています。
ここでいう不注意とは、集中力が続かないために、物事に注意を向け続けていられない状態のことです。不注意が強く現れるタイプには、以下のような特徴が見られます。
- 小さなミスが多い
- 一つのことに集中できず、気が散りやすい
- しょっちゅう物をなくしたり、置き忘れたりする
- 片付けや整理整頓ができない
- 約束や時間を守ることが苦手
- 自分が興味を持つことや好きな事には積極的だが、周りが見えないほど集中してしまう
ルールや約束事を破ろうという意思があるわけではないものの、結果的に守れないという状態に陥りがちです。
また、反射的にミスをするため、同じ失敗を繰り返しやすい点も特徴といえます。
多動性と衝動性は、特に男性のADHDの方に現れやすいといわれています。
多動性・衝動性が強く現れるタイプには、以下のような特徴が見られるでしょう。
- 物事の優先順位がわからない、またはわかっていないことに気付けない
- 落ち着いてじっと座っていられない、周囲をウロウロする
- 衝動的な発言や行動をしやすい
大人になるほどに、これらの特徴は子どもっぽさと認識されてしまうこともあるでしょう。
子どものころが特に問題にならなかったという人も、社会に出ると、自分の違和感に気づくことがあるといいます。
日が経つにつれその違和感は大きくなり、周囲からも社会性のなさとして認識されていく傾向も。周囲との関係が難しくなることで本人は生きづらさを感じ、自己嫌悪からうつ病や適応障害を発症してしまうこともあります。
また、精神疾患で精神科や心療内科を受診した際に、ADHDであることが発覚することも珍しくありません。
大人になるほど、周囲との摩擦は生まれやすくなります。
「がんばっているのにうまくいかない」というときは、やみくもにがんばる前に、まず自分がADHDかどうかをはっきりさせて対策を練ることも大切です。
しかし、ADHDの特徴は「フットワークの軽さ」や「決断力や発想力の高さ」として評価されることもあります。
ADHDは必ずしも欠点であるとはいえません。その特性を生かす場所・役割を見つけましょう。
自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)とは、かつて広汎性発達障害と呼ばれていた発達障害の一つ。
自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、レット症候群、不特定の広汎性発達障害といわれる、独立した5つの障害をまとめた総称です。
自閉スペクトラム症(ASD)は「社会コミュニケーションの困難」と「限定された反復的な行動」が大きな特徴として見られます。
日常的な会話のキャッチボールが難しく、なかなか会話が成り立たない傾向があります。人に関心がないような飄々とした雰囲気もあり、知らない人たちの中にいても何食わぬ顔で過ごしているようにも見えるでしょう。
また、会話中に表情があまり変わらず、ジェスチャーが少ない点も特徴的です。
自閉スペクトラム症(ASD)は、人の気持ちを理解すること、空気を読むことが苦手です。発言によって場の空気を壊してしまうことも少なくありません。
その思考の傾向は、柔軟性に欠ける傾向があります。
良くも悪くも同じ作業や同じ行動を繰り返す特徴があり、臨機応変が苦手なところも、人間関係を難しくする原因になっています。
自閉スペクトラム症(ASD)の人は、些細な変化も苦痛になりやすく、変化を嫌います。
これは、「ブレることなく自分のペースを守れる」「一つのことを嫌がらずに、コツコツと積み上げていく」という長所である一方、「こだわりが強い」「融通が利かない」という評価につながってしまう可能性も高いのです。
【実例】
- 職場や仲間内の暗黙のルールを理解できないため、足並みをそろえられない
- 上司や部下、同僚などとうまくコミュニケーションを取れない
- 同じ服や同じ作業手順などにこだわる
- 音や照明に過剰に敏感、またはひどく鈍い
よく観察してみると特徴的ではあるものの、自閉スペクトラム症(ASD)の特性は、必ずしも障害であるとは言い切れません。
ルーティン作業が得意などの特性を生かすことができる仕事に就けば、社会になじみながら快適な暮らしをしていける可能性も高いのです。
「自分は人と同じようにできない」と自分で可能性をつぶさず、自分を生かせる場所を探しましょう。
アスペルガー症候群
アスペルガー症候群は、自閉スペクトラム症(ASD)の中の一つです。
自閉症に近い特徴がありながら、知的障害や言語発達の遅れは見られません。そのため発見が遅れやすく、大人になってから「アスペルガー症候群だった」という診断をされる人も多くいます。
アスペルガー症候群は、大きく分けて「コミュニケーション」「人間関係」「こだわり」という3つの要素に極端な特徴が出やすいといわれます。また、「感覚過敏」や「運動機能のぎこちなさ」が感じられる人もいます。
3つの特徴をさらに詳しく見ていきましょう。
コミュニケーション
会話はスムーズにできるものの、「言葉の裏を読む」「行間を読む」という言語外の含みを読み取ることが苦手です。曖昧なコミュニケーションができないため、いわゆる「大人の会話」は難しいかもしれません。
言われた言葉は、そのままの意味を鵜呑みにします。人の発言を勘違いしやすく、傷ついてしまいやすい点も特徴的です。
その一方で、自分は相手に対してキツい言い方をしがちです。その発言で相手を傷つけてしまっていることも多いのですが、本人はそれに気づけないため、コミュニケーションをさらに難しくさせてしまうことがあるでしょう。
人がたくさん集まっている場所では、誰に対して発言しているのかわらかなくなる傾向もあります。相手の気持ちの変化や環境の変化に気づけず、人の会話をさえぎって自分の話ばかりしてしまうことも少なくありません。
人間関係
アスペルガー症候群の人は空気を読み、相手の気持ちに寄り添うことが苦手なため、自己中心的で攻撃的な言動の持ち主だと思われることも。
しかし、本人は相手を傷つける気はまったくないので、相手が傷ついていることにもなかなか気づけません。
深く長く付き合うほど、人間関係の構築や継続が難しくなる傾向もあります。
こだわり
いったん興味を持つと、過剰なほど熱中する傾向があります。
他のことが目に入らない、自分の興味のあることをずっとしゃべり続ける、人の話が耳身入っていないなどの状態に陥りやすいでしょう。
また、法則性や規則性に異常なほどのこだわりを見せることもあります。
マイルールが非常に大切で、それ以外の法則を極端に嫌います。少しでも予定外のことが起こると混乱してしまうのです。
しかしこの特性は、興味のある物事であれば、飛び抜けた記憶力や才能を発揮できる可能性も秘めています。
感覚過敏
アスペルガー症候群の人は、五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)が過敏で、こだわりがある傾向にあります。
例えば、服の肌触りや匂いが大事だったり、服の形状がくずれないよう干されていないと気が済まないなどのこだわりは、日常的に見られます。
また、他にどれだけの服があってもいつも同じ服を着たがることも。賑やかな場所に苦痛を感じたり、偏食で香りの強いものが極端に苦手たったりといったケースも多いでしょう。
運動機能のぎこちなさ
スポーツや手先を使った細かい作業が苦手な場合があります。
相手の動きを真似することも苦手なので、例えば職場で何かの作業を「やって見せる」という教え方では、習得が難しい傾向にあります。
大人の発達障害の方と上手く接するには?
大人の発達障害の人と上手く接するためにまず大切なのは、その人のありのままの状態を受け入れることです。
発達障害は、持って生まれたいわば個性のようなものです。
発達障害の人にとって、苦手としていることやできないことは、「頑張ればできること」ではありません。
「努力が足りない」「なまけている」と決めつけず、「他の人と同じやり方ではできない」ということを理解してあげましょう。
そして、まずはあなたが出した指示に対して、本人がどのようなやり方で作業を進めているのか観察してください。
その上で、本人のやり方で採用できるものはできるだけ採用し、一から十までの手順を細かく示してあげましょう。
その際、「今日の○○時までに、手順1を○○のように仕上げて持ってきてください」と作業を細かく分けて具体的な指示を出すことが重要。
仕上がったものを本人と一緒に確認し、何ができて何ができないのか、どの行程が理解できていないのか、その都度確認することが理想的です。
発達障害の人は、同じ作業の繰り返しは得意です。
最初に手間を惜しまずサポートしていくことで、その後の作業はスムーズに進むようになるでしょう。それは本人のためだけでなく、指示を出したあなたのためでもあります。
そして、どれだけの成果を出せるかは、「伝え方」や「言い方」も重要です。
人一倍傷つきやすい発達障害の人は、大声を出したり、威圧的な態度で対応すると、萎縮して何も考えられなくなってしまいます。
それが続くと自己肯定感がどんどん下がり、うつ病などの二次障害を引き起こす危険性も高まります。
毎日一緒にいる家族や職場の人は、発達障害の人と意思疎通がしにくいことが悩みかもしれません。そのストレスで、つい声を荒げてしまうこともあるでしょう。
しかし、「どうしてできないのか」と考えるのではなく、「どうすればできるのか」の話し合いを本人と重ねていってください。
根気強く話し合うことが、発達障害の人と上手に接していくきっかけを教えてくれます。
大人の発達障害に悩んでいる方へ
最近は大人の発達障害という言葉をよく聞くようになり、世の中の理解は広まってきています。仕事においても、適切な対応に尽力する企業も増えました。
しかし、まだまだ「理解が深い」とはいえず、発達障害の人は生きにくさを感じる場面が多いでしょう。
毎日がんばっているのに息苦しい、がんばるのに疲れてしまったと感じたら、一度心と体をゆっくり休ませることも大切です。
また、毎日がんばりすぎて心身の不調を感じているなら、うつ病などの精神疾患を発症するリスクも高まります。
家族や友人に相談しても解決策が浮かばない、誰に相談すればいいかわからないという方。また、すでに心身の不調を感じている方は、できるだけ早く精神科や心療内科のある病院・クリニックなどの医療機関で相談してみましょう。
発達障害の傾向がわかる
生きづらさを軽減するためにできること
発達障害は、薬による治療も選択できます。
薬の治療は発達障害を治す効果があるものではなく、あくまで「症状をやわらげる」のを目的とした補助的なものですが、それによって生きづらさも少し軽減するといわれています。
担当の精神科医とよく相談し、症状に対するより良い方法を選んでいきましょう。
これまでお話したように、発達障害にもさまざまな種類があります。
複合的な種類の特徴が見られる人も多く、ADHDとASDの両方を診断されるケースも少なくありません。
自分の症状に対する思い込みや決めつけによって、間違った対処をすると、生きづらさばかり積み重なってしまう危険があります。正しく対処するためにも、きちんと診断してもらうことは大切です。
間違ってほしくないのは、診断の目的は「診断名を知ること」ではなく、「診断によって抱えている悩みの理由を知ること」だということ。
診断によって、どうすれば生きづらさを減らせるのか、症状によって違う具体的かつ適切な方法を考えていけるのかが、診断することの良さなのです。
発達障害だったという事実に落ち込む必要はありませんし、発達障害だからと周囲に理解を求めるだけでも状況は改善しません。
まずは発達障害である自分を、ありのまま受け入れてあげてください。
そして自分が自分の一番の理解者となり、人ではなく周囲の環境を自ら変えていく気持ちを持ってみましょう。
場合によっては、転居、転職などの大きな変化も前向きな選択の一つです。
ただし、発達障害の人は、思い込みが激しくなりやすいことを忘れてはいけません。医師や家族、友人に相談しながら、慎重に進めていくことが大切です。
努力によって少しずつ状況が変わっていくと、それは自分への自信にもつながります。その自信が、生きづらさを軽減させるきっかけになるはずです。
まとめ
大人になって発達障害だと知った人も、子どものころから自分の違和感には気付いている傾向にあります。
友達をつくるのが苦手だったり、そもそも学校が苦手だったりと、周りの子たちと違う特徴は、本人にとって大きな悩みだったことでしょう。
しかし、そうした特徴を発達障害と診断されずに大人になると、本人も周囲の人もその特性を障害だとは認識していません。
大人になってさらに厳しい現実に直面しつつ、正しい対応ができないまま、ただ苦しい思いを長い時間抱えてきたという人も少なくないはずです。
自信は底をつき、うつ病や不安障害などの精神疾患と闘ってきた人もいるかもしれません。
今回お話しした特徴がいくつも当てはまると感じたら、一度精神科や心療内科へ相談に行ってみることをオススメします。
相談に行くだけで現状が理解でき、生きづらさが少し解消されることも、診断されることで心が軽くなることもあるでしょう。
一番怖いのは、自己判断した結果、「発達障害に対する正しい対処がされないこと」と「発達障害だと自分で思い込む、または周囲が決めつけることで、自分も周囲の人も心を病んでいくこと」です。
ぜひ「発達障害とは何か」を正しく理解し、自分も周りも笑顔になれる暮らしを築いていきましょう。
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うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。