涙もろい、涙が止まらないのはうつ病だから?
「人前で泣くなんて恥ずかしい」
「泣くのはみっともない」
「涙を見せるのは個人的な弱さだ」
涙を流すことを否定的にとらえる人は少なくないようで、実際にこのように言われたことがある人は多いと思います。その一方で、失恋したとき、試合に負けたとき、大事にしていたものが壊れたときなど、つらい思いをしたときに、号泣することで翌朝にはスッキリした、という体験がある人も少なくないのではないでしょうか。
泣くことは自然なことで、ストレスが緩和される、周囲のサポートにつながるなどのメリットがあります。一方で、「わけもなく涙が出る」「いつまでも泣きやまない」「ちょっとしたことで涙が出る」などの「泣くこと」の異変はうつ病のサインである可能性があります。
この記事では、涙を流して泣くことのメリットと、泣くこととうつ病の関係を解説します。
泣くことは健康に悪い?
悲しいとき、寂しいとき、うれしいとき、楽しいとき──私たちはさまざまな感情にともなって、自然に涙を流します。この「感情的に泣く」ことは人間に特有であると考えられています。
一方で、「人前で泣いてはいけない」「泣くのは恥ずかしいことだ」「泣くのは弱いからだ」などのような価値観を背景に、泣くことを否定されながら育った人も少なくないでしょう。
それでは、泣くことは健康を害する悪いものなのでしょうか?
その疑問には、「いいえ」と答えるのが妥当でしょう。
泣くことは多彩な感情にともなって生じる人間の正常な反応であって、決して異常なことではありません。それどころか、近年の研究によれば、泣くことが健康に有益であるということが示されつつあります。
涙の種類
ところで、涙は基礎分泌・反応性・情動性の3種類に分類されています。
- 基礎分泌の涙:常に少量分泌され続けている涙で、目の潤いを保ち、感染症から目を保護します。
- 反応性の涙:目にゴミや煙が入った時、タマネギを切った時などに反射的に流れる涙で、異物を洗い流し、目を保護します。
- 情動性の涙:さまざまな感情にともなって流れる涙です。この涙は人間に特有であると考えられています。
一般に「涙を流す」というときは《情動性の涙》を指します。
なぜ泣くのか?
情動性の涙は、成長するに従い流す理由(きっかけ)が変化します。
赤ん坊は、「おなかが空いた」「おむつが濡れた」「何か来た、助けて」と泣くことで不快な感情を示します。話すことができない赤ん坊にとっては、自分に迫る危険やストレスを周囲に伝える手段は泣くことしかありません。
小児期からは肉体的な苦痛も涙のきっかけになりますが、成長に従って泣かなくなります。
成長にともない、(男性は特に)泣くことを我慢するようになります。それは泣くことを我慢するように教育されることが深く関係しています。一方で古い時代の文献をひもとくと、古事記のスサノヲから、戦国時代の武将まで、昔の人々は実によく泣いています。我が国において「男の涙」が恥となったのは江戸時代以降らしいので、戦争や飢饉など、文字通り死が隣人であり、明日の命も定かでなかった人々にとっては、泣くことはむしろ、命を実感するためにも大切な儀式や表現であったのかもしれません。
大人になるにつれて涙を引き起こす感情は幅広くなり、さまざまな苦痛だけでなく、映画や小説などに感情移入して流す涙、他人に同情して流す涙など、共感に由来する涙が多くなります。
泣くことの4つのメリット
さまざまな研究によると、泣くことには以下のようなメリットがあります。
1.ストレスを緩和する
悲しいことや苦しいことが起こったとき、混乱の渦中にはかえって泣けず、一息ついてホッとした瞬間に涙が流れるという体験がある人は少なくないのではないでしょうか。
《自律神経》は、ストレスを感じている時には《交感神経》が、リラックスしているときには《副交感神経》が活性化します。涙はこれら交感神経と副交感神経が協調して制御していますが、副交感神経の活動がより重要です。泣く直前に交感神経が高まった後、涙を流す瞬間に副交感神経に瞬時に切り替わっていることが観察されています。
2.周囲のサポートを得る
赤ん坊や子供が泣いているのを見ると、つい心配してしまう人も多いと思います。
泣くこと(特に涙)は、あなたが助けを必要としていることを周囲に伝える役目を担います。周囲の共感や同情心に訴え、攻撃性を軽減します。
なお、声の要素は時に雑音として捉えられ、周囲をイラつかせる可能性もあります。
大勢の前で泣いたときは恥ずかしいなどの雑念が生じる可能性がある一方で、周囲の人が共感し慰めることで、泣いている人の気分が改善する可能性があります。さらに、親しい人が単独で共感的に付き添う場合には、気分の改善の度合いが高いようです。
3.痛みを和らげる
泣くことで、オキシトシンやエンドルフィンが分泌されます。これらの生体物質は、心身の痛みを和らげることに役立ちます。
4.気分を改善する
泣くことで気分がスッキリするという体験は、多くの人が共有するところだと思います。一方で、泣くことが気分に悪影響を与えることもあります。社会的な影響などで、泣くことが「恥ずかしい」「弱さである」というようにネガティブなものだと感じている場合や、周囲が偏見や悪意をもって、拒絶的・批判的に対応する場合は、泣いた後の気分の改善を妨げる可能性があります。
わけもなく涙が出るのはうつ病だから?
上述のように泣くことにはメリットが多く、悲しいときやうれしいときなど、自然な感情に従って泣くことは正常なことで心配する必要はありません。涙を流したいと感じたときは、(それが可能なら)実際に涙を流しましょう。
しかし、急に涙もろくなる、涙が止まらない、頻繁に泣くといった不安定な精神状態は、もしかするとうつ病のサインかもしれません。以下のような「泣くこと」の異変があり、日常生活に支障をきたしている場合はうつ病の可能性があります。
- 通常より頻繁に泣く
- いつまでも泣きやまない
- 涙もろく、ちょっとしたことで涙が出る
- わけもなく涙が出る
なお、重度のうつ病では、かえって泣くことが難しくなります。重いうつ病の治療中に泣けるようになることは、回復のきざしである可能性があります。
その他のうつ病の症状には以下のようなものがあります。
- 悲しみやむなしさを感じる
- 趣味など、これまで楽しかったことが楽しめない
- 落ち着かずイライラする
- 眠れない、もしくは眠りすぎる
- 食欲が湧かない、もしくは食べ過ぎる
- 疲れ切り、何もする気力が湧かない
- 自分が悪い、自分には価値が無いと思い込む
- 集中力や判断力が低下する
- 死にたいと思う、あるいは死や自殺について考える
これらの症状が、毎日、2週間以上続くような場合はうつ病の可能性があります。早めに精神科・心療内科を受診することをおすすめします。
まとめ
泣くことは、多様な感情にともなう人間の正常な反応であり、ストレス緩和や周囲のサポートにつながるなどの利点があります。
しかし、頻繁に泣いたり、いつまでも泣きやまなかったり、理由もなく泣いたり、ちょっとしたことで泣いてしまったりするような場合は、「泣くこと」がうつ病の兆候である可能性があります。その場合は、精神科・心療内科を受診することをおすすめします。
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