高カカオチョコレートはストレスを軽くする?

一息つきたいときの手軽なお菓子として、チョコレートは非常に親しまれています。
チョコレートが健康に与える影響については近年活発に研究されており、その成果がたくさん報告されてきました。カカオポリフェノールによる血圧低下や抗酸化作用などは比較的有名で、多くの方が一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。
メンタルヘルス面も例外ではなく、うつやストレスとチョコレートがどのように関連しているのか研究が続けられています。

この記事では、ストレスやうつ病などのメンタルヘルスと、チョコレートの関係について解説します。

チョコレートの歴史

チョコレートは、今でこそ入手も容易で、皆に愛される定番のお菓子のひとつですが、昔から今のような地位にあったわけではありません。

チョコレートの原料であるカカオは、中米で「神々の食べ物」として紀元前から食されていたようです。スペイン人に征服される前、マヤやアステカで、カカオは神への供物や貨幣として用いられました。貴重品でしたので、カカオを口にできるのは特権階級だけでした。苦く刺激の強い泡立った飲み物で、お菓子というよりも煎じ薬のようなものだったようです。
16世紀にスペインに持ち込まれた後、当初は王侯貴族・聖職者の薬や贅沢品としてヨーロッパ大陸に広がりました。19世紀にココア・パウダーや“食べる”チョコレートが発明され、さらに粉ミルクを加えたミルクチョコレートが開発されるに至り、世界中で広く愛されるようになりました。

チョコレートは気分を改善し、ストレスを軽くする

現在では、その健康面への作用が改めて注目されており、さまざまな研究成果が発表されています。メンタルヘルスに関しても同様で、ポジティブな気分をもたらし、ストレスを軽減する作用などについて報告されています。

  • カカオ由来食品の摂取に関する過去の文献を調査解析したところ、カカオ由来食品の摂取が不安と抑うつを和らげ、気分を改善する効果が、少なくとも短期的には認められると結論づけています[1]
  • 米国の1.3万人以上の成人を対象にした「チョコレートの消費と抑うつ症状との関連」についての調査では、高カカオチョコレートを摂取している人は、抑うつ症状の可能性が低いと報告しています。この研究では、「チョコレート摂取の有無」に加えて、「摂取しているチョコレートの種類(高カカオのダークチョコレートか、それ以外か)と一日の摂取量」と、抑うつ症状の関係について調査しています。その結果、非ダークチョコレートの摂取による影響は認められませんでしたが、ダークチョコレートを摂取している人は有意に抑うつ症状の可能性が低かったとのことです[2]
  • 米国ゲティスバーグ大学では、258人を対象に、チョコレートかクラッカーを、注意深くか無造作に食べるという4つのグループに分けて「チョコレートと幸福感の増加」について調査しました。結果としては、注意深くチョコレートを食べたグループは、他の3つのグループよりもポジティブな気分を高めたとのことです[3]
  • スイスで行われた65人に対する「高カカオチョコレートまたはその偽物(本物に偽装したホワイトチョコレート)50gを摂取し、2時間後に大きなストレスをかける」という実験では、高カカオチョコレートを摂取したグループは、偽物を摂取したグループよりもストレス反応が鈍化していたことが明らかになり、高カカオチョコレートがストレス反応を緩和できると報告しています[4]

チョコレートと脳由来神経栄養因子(BDNF)

2014年に株式会社明治と愛知学院大学の産学共同研究として、チョコレート摂取と健康に関する調査が行われました[5]
この調査は45~69歳の347人を対象に、高カカオチョコレートを1カ月間毎日一定量摂取し続け、その間の身体状態の変化を追跡するというものです。結果報告によるとチョコレートの摂取の前後で《脳由来神経栄養因子(BDNF)》の上昇が認められたとのことです。

BDNFは、神経細胞(ニューロン)の維持や成長に関わる、脳細胞の増加に不可欠な生体物質です。「栄養」といっても生存に必要なものという意味合いで、ビタミンや炭水化物などの「栄養素」とは異なります。

脳由来神経栄養因子(BDNF)とうつ病

BDNFはうつ病にも関連していると考えられています。
大うつ病患者は健常者よりもBDNF濃度が低く、さらに抑うつ症状が強い患者ほどBDNF濃度が低いという報告があります。
BDNFの減少が《神経可塑性》(脳が学習するための性質)を障害してうつ病を引き起こすという仮説は《神経可塑性仮説(BDNF仮説)》と呼ばれ、抗うつ薬治療や《電気けいれん療法(ECT)》《磁気刺激治療(TMS治療)》などのうつ病治療でBDNFの増加が報告されています。
BDNFが増加することで、委縮した海馬などの脳神経が修復されているという可能性が考えられています。

ただし、現在のところチョコレートを食べるだけでうつ病を治すというのは現実的ではありませんので、うつ病の治療を考えている場合は、精神科・心療内科を受診してください。

食べすぎにはご注意を

2008年に国民生活センターは、高カカオチョコレートの過剰摂取に対して注意喚起しています[6]
チョコレートはもともと脂質量が多い高カロリーな食品ですが、高カカオチョコレートは普通のチョコレートよりもさらに脂質量が多く高カロリーです。チョコレートは主に間食として食べると思いますので、1日の食事のバランスなどを考慮しながら、上手に付き合いましょう。

まとめ

チョコレートは手軽なお菓子として人気がありますが、近年は健康に与える影響について活発に研究されています。特に高カカオチョコレートは、気分を改善し、ストレスを軽くするという研究報告もあります。
また、高カカオチョコレートを食べ続けることで《脳由来神経栄養因子(BDNF)》が増加したという報告もあります。《脳由来神経栄養因子(BDNF)》は、うつ病を治療した際に増加し、委縮した海馬などの脳神経が修復されていると考えられています。
健康に貢献するチョコレートですが、脂質が多い高カロリーな食品なので食べすぎにはご注意ください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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