環境の変化はうつ病を招く?
進級したら、クラスの友達がバラバラになった。
大学進学のために一人暮らしを始めた。
部署異動で、一緒に働く同僚が全員かわった。
隣に引っ越してきた人が夜中に騒ぐ。
私たちは誰しも、大なり小なり人生の中で環境の変化を経験します。その変化は好ましいこともあればそうではないこともありますが、いずれにしても少なからずメンタルに影響を与えます。
環境の変化は個人に成長機会を与える一方で、メンタルにダメージを与え、うつ病などを引き起こす可能性もあります。
この記事では、人生に訪れるさまざまな環境変化と、ストレスやうつ病との関係と対処法について解説します。
環境の変化
「環境の変化」という言葉はいくつかの意味をもちますが、この記事では「ある人の日常生活がそれまでの生活と変化すること」をみていくこととします。この「変化」は実に多様で、例えば以下のようなものが考えられます。
- 学校・学習環境:入学・進級・退学・卒業など、学習環境には定期的に大きな変化が訪れます。特に個人の能力や希望に紐づいて選択されやすい高校以降は顔ぶれが一新され、人間関係にも大きな変化が生じる可能性があります。学校は試験や行事など、ストレスになる可能性のあるものにあふれています。なお、通常の学校に限らず、塾や予備校なども環境の変化をもたらします。
- 仕事の環境:就職・昇進・転勤・解雇・退職など、会社・仕事関係の変化も多様です。起業や廃業、失業なども大きな環境変化をもたらします。
- 家庭の環境:結婚・妊娠・出産・別居・離婚・死別など、家庭・家族関係に関しても変化するものは少なくありません。(本人や子供の)実家からの独立や、(親などの)同居、親族の介護なども環境の変化をもたらします。
- 各種の出来事(イベント):事故や犯罪に巻き込まれる、重い病気にかかる、経済状態の変化、友人との別離、大きな借金、引っ越しなども大きな変化をもたらします。
環境の変化はストレス源になる?
環境の変化はストレスと表裏一体です。
一般に、それまでの日常生活に大きな変化をもたらす(その多くは自分にとって重要な)出来事ほど、ストレスは大きくなります。悪い変化に限らず、良い変化であっても、変化そのものがストレスとなりえます。
気温が暑い寒いというようなシンプルな変化もストレスになりますが、社会的な変化のストレスはさらに複雑で多方面に影響することが普通です。
例えば、「結婚」を例に考えてみます。「結婚」と言葉にすると一言で済んでしまいますが、実際には以下のように複数の要素が関係しています。
- 引っ越し:結婚の前後に引っ越しをともなうことは珍しくありません。例えば人口密集地で育った人が過疎地へ引っ越す場合は、引っ越し先での「ご近所付き合い」のあり方に戸惑うかもしれません。人が少ない土地は娯楽商業施設も少なく、休日の過ごし方が変わる可能性があります。自然との触れ合いは歓迎できたとしても、虫が多い、野生の獣が出るなどはストレスになる人も少なくないことでしょう。逆に人口密集地に引っ越したことで、時間管理の余裕の無さに苦労することも考えられます。
- 人間関係:お互いの家族や交友関係にも影響がある可能性があります。特に引っ越しがともなう場合は、疎遠になる人が出たり、新しい交友関係が生まれたりなど、変化が大きいかもしれません。
- 生活習慣:お互いに別々の環境で育ってきた夫婦は、生活習慣が異なる可能性があります。生活リズム、食事の好み、休日の過ごし方、趣味など、さまざまな部分で違いが生じるのは当たり前です。
- 価値観:育ってきた環境や受けてきた教育、体験の差により価値観が異なることは珍しくありません。
結婚そのものは好ましいイベントであっても、そこに付随するさまざまな変化までが好ましいものとは限りません。ひとつひとつは小さな変化ですが、これらの変化が一斉に生じることで、少なくとも身体には相応の負荷がかかっており、適応障害やうつ病を発症するリスクが高まります。
うつ病の原因は環境の変化?
うつ病の原因は正確にはわかっていませんが、遺伝や環境など複数の要因が影響していると考えられており、変化(ストレス)はうつ病を発症・悪化させる十分なリスクとなりえます。もし、気分が落ち込んだり、趣味が楽しめなかったり、眠れなかったりなどの不調が長く続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があります。
環境の変化で不調なときは、受診すべきですか?
環境の変化に戸惑ったり、その変化にストレスを感じたりすることは誰にでもあることです。とはいえ、ほとんどの場合は一時的なことなので、すぐに医療機関に相談すべきというほどではありません。
しかし、変化から十分に時間が経過したにもかかわらず、まだ気分が落ち込んだり、趣味が楽しくなかったり、よく眠れない、食欲がないなどの心身の不調が続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があります。もし、2週間以上不調が続くようであれば、精神科・心療内科を受診してください。
環境の変化とうまく付き合うために
現代日本では、人生を送る中で環境が変化することはごく当たり前に生じます。しかし、環境の変化がストレスであるとしても、変化やストレスが常に悪いことばかりというわけではありません。むしろ、自分自身の殻をやぶり、新たな可能性を試すチャンスともいえるでしょう。変化が訪れることを前提に、前もって備えておくことは大切な心掛けです。
- 変化はあって当然であると考える:人生において、変化は誰にでも訪れるもので、完全に避けることはできません。
- 規則正しい生活を送る:規則正しい生活は、就寝時間と起床時間を毎日守ることが基本です。起床時間を守ることは特に重要です。十分な睡眠をとり、目が覚めたら、まず朝日を浴びましょう。変化が大きい時ほど、可能な範囲でルーチンを守ることは助けになります。
- 健康的な食事を1日3回取る:栄養バランスを考えた食事を、毎日決まった時間にとりましょう。朝食が特に重要です。
- 適度に運動する:適度な運動は、夜の寝つきをよくします。また、メンタル改善に役立つことが分かっています。
- SNSから離れる:SNSには、現実を切り取り演出されたものを載せるのが普通です。SNSで他人の優雅な生活を覗き見ると、自分自身のつらい状況をよりみじめに感じてしまうかもしれません。他人と比べて落ち込むようならSNSから離れるよい機会です。
- 周りに相談する:一人で悩んでいても限界があります。家族、友人、同僚や先輩、上司などに相談することも1つの方法です。単に話を聞いてもらうだけでもスッキリすることもあります。
- 支援を受ける:生活のすべてを自分一人でまかなう必要があるわけではありません。例えば、変化に適応できるまで、食事を自炊ではなく外食にして時間的な余裕を確保するなどは1つの方法です。
- 変化で得た良いものを書き留める:変化によって生まれた新しい出会いや、良い習慣、成長した点など、あなたが変化によって得たものを書き留めます。変化はあなたに成長の機会を与えてくれるものでもあります。何が良くなったのかを理解することは、次の変化を受け入れる下地になります。
まとめ
環境の変化は実に多様で、学校や会社、家庭とどんな環境でも生じる可能性があります。環境の変化はストレスと表裏一体で、一般に、それまでの日常生活に大きな変化をもたらす変化ほど、大きなストレスとなります。
例えば「結婚」であれば、引っ越しにともなう変化、人間関係の変化、お互いの生活習慣や価値観の違いなどによる変化などのストレスに分解でき、ひとつひとつは小さな変化やストレスであっても、まとまると大きな変化やストレスにつながることもあります。
これらの変化やストレスは、時にうつ病の発症や悪化のリスクになります。しかし、変化はあって当然であると受け入れ、生活習慣を見直すなど、前もってしっかり備えておくことで変化を上手に乗りこなすこともできるでしょう。
それでも、気分が落ち込んだり、趣味が楽しめなかったり、眠れなかったりなどの不調が数週間以上続くようであれば、うつ病などを発症している可能性があるため、精神科・心療内科を受診してください。
主要参考文献12 ソース
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- 永岑光恵(2022)『はじめてのストレス心理学』, 岩崎学術出版社
- 樋口輝彦・野村総一郎・加藤忠史(編著)(2011)『うつ病の事典:うつ病と双極性障害がわかる本』, (こころの科学増刊), 日本評論社
- 丸山総一郎(編)(2015)『ストレス学ハンドブック』, 創元社
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- Stephanie Watson, “Causes of Stress”, WebMD, reviewed: 2024/4/16(参照:2024/10/21)
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