頭がもやもやする「ブレインフォグ」はうつ病の症状ですか?

「頭のモヤモヤが晴れない」
「集中できず、頭が回らない」
「何を言おうとしてたんだっけ?」

徹夜明けなどに、思考が鈍り、頭がもやもやする体験をしたことがある方は少なくないと思います。
《ブレインフォグ》は、睡眠不足やストレス、うつ病などによって引き起こされる精神状態を説明する用語ですが、近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症を説明する際によく用いられたことで知られるようになりました。
ブレインフォグは、仕事や勉強のパフォーマンスが低下するなど、さまざまな弊害をもたらし、その背景にうつ病などが隠れている可能性もあり注意が必要です。

この記事では、ブレインフォグの症状、原因や対処法について解説します。

ブレインフォグとは

《ブレインフォグ》は、医学的な病名ではなく、思考が鈍り、頭がもやもや、ぼんやりしている精神状態を説明する用語です。生活習慣の乱れなどによる一時的な状態の場合もあれば、何らかの疾患の症状である場合もあります。
ブレインフォグでは、以下のような認知機能の低下がみられます。

  • 注意力・集中力の低下
  • 学習力・記憶力の低下
  • 処理速度・反応速度の低下
  • 遂行機能(実行機能)の低下

最後の《遂行機能(実行機能)》とは、思考と行動を統制する脳の機能で、設定された目的を達成するために計画を立て、その計画を効果的に実行するための能力です。遂行機能がうまく働かない場合、衝動的に行動する、行動を開始できない、指示待ちになって自発的に動けないなどの不都合が生じます。

ブレインフォグは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症を説明する用語として話題になりましたが、もともとこの「認知機能の低下」は、ストレスや睡眠不足、うつ病などでもよくみられる症状です。

ブレインフォグによる困難

ブレインフォグを発症すると、具体的には以下のような困難に直面することになります。

  • 頭がぼーっとする
  • 何かを理解したり記憶したりするのが難しい
  • 度忘れして言葉が出てこない
  • 読書や映画鑑賞など、話の筋が追えなくなる
  • 少し前のことも思い出せない
  • すぐに気が散る
  • 段取りを立てるのが難しい
  • マルチタスクができない
  • 会話のキャッチボールができない
  • 仕事や勉強のパフォーマンスが落ちる

倦怠感や、精神的な疲労感を伴うこともよくあります。

ブレインフォグはうつ病の症状?

うつ病患者の94%が認知機能の低下を症状にもつという報告もあります[1]。ブレインフォグ(認知機能の低下)の全てが、うつ病の症状ということではありませんが、以下のような症状が複数ある場合は、うつ病の症状としてブレインフォグが現れている可能性があります。

  • 悲しみやむなしさを感じる
  • 趣味など、以前は楽しかったことが楽しめない
  • 落ち着かず、イライラする
  • 眠れない、あるいは眠りすぎる
  • 食欲がわかない、あるいは食べ過ぎる
  • 疲れ切り、何もする気力がわかない
  • 自分が悪い、自分には価値が無いと思い込む
  • 死にたいと思う、あるいは死や自殺について考える

これらの症状が、毎日、2週間以上持続し、日常生活に悪影響が出ている場合はうつ病の可能性があります。
うつ病は早期発見・早期治療が大切です。うつ病の疑いが強い場合は精神科・心療内科の受診をおすすめします。

なお、ブレインフォグはうつ病の発症前に現れることや、うつ病が落ち着いた後に症状が残るということもよくあります。短期間に症状が増えるようなら受診をお勧めします。

ブレインフォグのその他の原因

うつ病以外の疾患や健康状態にも、その症状としてブレインフォグが現れる場合があります。うつ病以外には、以下のような疾患や状態があげられます。

  • 睡眠不足
  • ストレス
  • 栄養不足や脱水症状
  • 妊娠・更年期などのホルモン変化
  • 狼瘡・多発性硬化症(MS)・関節リウマチなどの自己免疫疾患
  • アルツハイマー病
  • COVID-19、SARSなどのウイルス感染症の罹患後症状(後遺症)

ブレインフォグの治療法

ブレインフォグ自体に、特別な治療法は確立していません。
ブレインフォグが何らかの疾患に由来する場合は、その疾患の治療が必要です。

ブレインフォグがうつ病に由来する場合は、薬物療法・心理療法やTMS治療などが治療の選択肢にあげられます。ただし、薬物療法で用いられる抗うつ薬や睡眠薬がブレインフォグを引き起こす可能性もありますので、そのような場合は、医師に相談するようにしてください。

ブレインフォグの対処法(セルフケア)

ブレインフォグを和らげるためには、以下のような対処法があります。
こうした生活習慣の改善は、ブレインフォグに限らず、さまざまな疾患予防も期待できます。

  • 質の良い睡眠を十分にとる
  • バランスの良い食事をとる
  • 適度に身体を動かす
  • アルコールやカフェインを避ける
  • ストレスを管理する

いつ医療機関にかかるべきか?

ブレインフォグは必ずしも疾患の症状ではありません。徹夜明けなど、一時的な状態ですぐに回復可能なものは特に医療機関にかかる必要はありません。しかし、ブレインフォグが頻繁に生じる、長期間続くなど、生活に支障をきたしている場合には適切な対処が必要です。
ブレインフォグがうつ病の前兆だった、というようなケースもあります。次のような場合は、医療機関を受診してください。

  • ブレインフォグの症状が長期間続き、よくなるどころか悪化している。
  • セルフケアでは改善せず、生活に支障が出ている。
  • ブレインフォグ以外にも症状がある。

まとめ

《ブレインフォグ》は、さまざまな理由で発生する、頭がもやもやと回らなくなる精神状態のことです。ブレインフォグでは、「マルチタスクができない」「度忘れして言葉が出てこない」「頭がぼーっとする」などの認知機能の低下がみられます。
ストレスや睡眠不足以外に、うつ病などの疾患が原因となることもあり、その場合、それらの疾患の治療が必要です。生活習慣の見直しも、ブレインフォグ改善に良いとされています。
ブレインフォグが長期間続いたり、生活に支障がでたりというときには医療機関を受診してください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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