TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)の基本原理~なぜ磁気を使うのか?~

19世紀に英国のファラデーが発表した《ファラデーの電磁誘導の法則》が、《TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療)》の基本原理です。TMS治療は従来の薬物治療とは異なるメカニズムでうつ病を治療するため、薬が効かない人にも効果が期待できます。

この記事では、磁気刺激の基本原理、磁気刺激の理由、期待できる効果について解説します。

磁気刺激の基本原理

TMS治療で用いられる磁気刺激の原理そのものは《ファラデーの電磁誘導の法則》に基づいています。
《ファラデーの電磁誘導の法則》は、1831年に英国のファラデーによって発表された物理法則です。

  1. コイルへの瞬間的な通電により、
  2. コイルに対して垂直に磁場が生じます。磁気は頭蓋骨を貫通して脳実質(脳そのもの)に届き、
  3. コイルに平行して(電流とは反対方向に)渦電流(うずでんりゅう)を発生させます。
  4. 発生した渦電流が、脳の神経組織(ニューロン)を刺激します。

つまり「磁気」刺激とはいうものの、最終的には「電気」によって刺激します。
うつ病へのTMS治療でよく使用される8の字コイルの場合、2つのコイルの接点は電流が2倍になり、発生する渦電流も最大になります。一方で頭部(脳表面)は平面ではなくカーブしており、接点から離れるほど脳からも遠ざかるため、コイルの接点以外で発生する渦電流は非常に小さくなります。
結果として、接点以外にはほとんど影響を与えないため、治療部位をピンポイントで刺激することが可能です。

なぜ磁気刺激なのか?

最終的に電気で刺激するのなら、磁気を使わず最初から電気で刺激すればよいのではと疑問に思われるかもしれません。

人体の最重要部位である脳を守る頭蓋骨は、非常に高い絶縁性(電気抵抗)を誇ります。そのため、狙った部位に届くまでに9割以上のエネルギーを失うことから、十分なエネルギーを届けるためには何倍も強力な電流が必要になり、結果として非常に強い苦痛を味わうことになります。
実は磁気刺激以前に、《経頭蓋電気刺激法(TES)》と呼ばれる電気による刺激法も開発されてはいましが、苦痛が強すぎたため、あまり普及しませんでした。

一方で、磁気は頭蓋骨でエネルギーを失うことなく簡単に貫通するので、効率的に刺激できます。

刺激するとどうなるの?

うつ病患者の脳は、複数の脳内領域や神経ネットワークのつながりに異常をきたしているということが分かってきています。

人の脳には約850億個のニューロン(神経細胞)が存在し、ニューロン同士は電気信号による情報伝達ネットワークを形成しています。ニューロン間にはシナプスといわれる隙間があり、この隙間は電気信号を神経伝達物質という化学物質(セロトニンなど)に変換することで情報伝達します。

TMS治療では、渦電流による刺激が神経活動を一時的に制御することで神経ネットワークを再構築し、機能低下した部位を活性化したり、過活動を抑制したりしていると考えられています。
抗うつ薬では神経伝達物質に働きかけることで治療しますが、TMS治療はこのように異なるメカニズムでうつ病に働きかけるので、薬の効果が無い人にも有効である可能性があります。

品川メンタルクリニックのTMS治療

品川メンタルクリニックではTMS治療を行っています。
現在のうつ病治療の主流は抗うつ薬による薬物治療ですが、スッキリと効果が現れるうつ病患者は全体の3分の1くらいで、3分の1の人にはほとんど効果が望めないという報告があります。
当院のTMS治療では5~6割の人が寛解(症状がほとんどなくなること)し、全体の8割程度の人の症状が軽くなっています。前述の通り、TMS治療と薬物治療はメカニズムが異なりますので、薬物治療がうまくいかない人もあきらめずにご相談ください。

まとめ

TMS治療で用いられる磁気刺激の原理そのものは《ファラデーの電磁誘導の法則》に基づいています。
コイルへの瞬間的な通電で発生した磁場が、脳内に渦電流(うずでんりゅう)を発生させ、脳の神経組織(ニューロン)を刺激するというものです。
磁気が用いられるのは、頭蓋骨で絶縁されてしまう電気では、十分な効力を発揮するために強力な電流が必要となって苦痛が大きいためです。磁気は頭蓋骨で遮られないため、効率的に刺激できます。

うつ病患者の脳は、複数の脳内領域や神経ネットワークのつながりに異常をきたしているということが分かってきています。TMS治療では、渦電流による刺激が神経ネットワークを再構築し、機能低下した部位を活性化したり、過活動を抑制したりしていると考えられています。

TMS治療は薬物療法とは異なるメカニズムでうつ病に働きかけるため、薬の効果が無い人にも有効である可能性があります。薬物治療がうまくいかない人もあきらめずにご相談ください。

渡邊 真也

監修

渡邊 真也(わたなべ しんや)

2008年大分大学医学部卒業。現在、品川メンタルクリニック院長。精神保健指定医。

品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。

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