「秋うつ」は、今年もあなたに忍び寄る
読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋、実りの秋、芸術の秋──秋は一般的に過ごしやすい季節です。心身ともに充実し、ポジティブな雰囲気の中で毎日を送る人も少なくないことでしょう。
一方で、夏の活気が失われ、太陽が早くに沈み、肌寒さと物悲しさが心身に忍び寄る日々に、なんとはなしに寂しさを感じるだけではなく、決まって体調を崩すという人もいます。
この記事では、秋うつともいわれる、秋に発症する《季節性うつ病》の特徴や治療・対処法などについて解説します。
秋という季節
秋というと、どのようなことを思い浮かべますか?
秋刀魚、柿、栗、さつまいも、銀杏、コスモス、彼岸花、十五夜、鈴虫、赤とんぼ、紅葉、遠足、運動会──楽しいことやおいしいものが思い浮かぶ人も多いと思います。
一方で、夏の活気が失われることを物悲しく感じ、理由もわからず寂しさを感じる人もいることでしょう。
広辞苑では、秋は「天文学では秋分から冬至まで、太陽暦では九月から一一月まで、太陰暦では七月から九月までの三ヵ月
」[1]と記され、現実的な感覚としてもおよそ9月から11月くらいが秋と認識されていると思います。
秋のストレス源
一般的に秋は過ごしやすい季節ですが、当然ながら、個人の体質・性質や環境によってはその限りではありません。秋は新学期や転勤など環境変化やイベントも多い時季であり、ともすればストレス過剰になる可能性があります。うつ病の原因はストレスに限りませんが、ストレスがうつ病を発症させるリスクであることは疑いようがありません。
秋にもストレス源は数多くありますが、例えば以下のようなものがあげられます。
- 寒暖差:「秋の日はつるべ落とし」ということわざの通り、秋は日が落ちるのが目に見えて早く、朝夕はかなり冷え込むようになります。日中は暑く、朝夕は冷え、と寒暖差が激しいため、体調を崩しがちです。寒暖差アレルギーで鼻水やくしゃみが出るようなときは特に注意してください。
- 気圧の乱高下:秋は台風、秋雨に秋晴れと、天候(気圧)も猫の目のように目まぐるしく変化します。気圧の乱高下も、自律神経を乱すストレスになる可能性があります。
- アレルギー:花粉症といえば春のスギ花粉が有名ですが、秋にはイネやブタクサの花粉が猛威を振るいます。また、ダニ・ハウスダストは季節を選びませんが、秋に最もひどくなります。
- 日照量の減少:体温・血圧・心拍・睡眠・ホルモン分泌など、体内のいろいろな要素は体内時計が管理しているため、日照時間の減少による体内時計のずれが、身体にさまざまな異常を引き起こす可能性があります。
- 社会的環境:一般的に企業の人事異動は4月と10月が多いとされています。また、学校生活では2学期が始まり、運動会・体育祭や文化祭は秋に開催されることも多いでしょう。秋といえば遠足や行楽シーズンの定番でもあります。
秋うつ(季節性うつ病)とは
《季節性うつ病(季節性感情障害)》は、主に晩秋から初冬にかけて発症し、春ごろに回復するというサイクルを繰り返すうつ病で、冬中心のサイクルから《冬季うつ病》ともいわれます。秋に発症することから《秋うつ》といわれることもあります。
もし、毎年秋から冬にかけて決まって発症するという場合は、季節性うつ病が疑われます。
秋うつの症状
秋に発症するうつ病の全てが季節性うつ病とは限りません。しかし、季節性うつ病は《大うつ病》のサブタイプ(下位分類)のため、基本的な症状は共通しています。
うつ病の症状には以下のようなものがあります。
- 気分の落ち込み、悲しい、さみしい気持ち
- 以前は楽しんでいた趣味や活動への興味を失い、楽しめない
- 不眠や過眠
- 食欲や体重の異変
- 不安と焦燥感(イライラ感)
- 倦怠感や意欲・気力の減退
- 絶望感・無価値観・罪責感
- 思考力・集中力・決断力の低下
- 死のことを考える、自殺願望を抱く
秋冬型の季節性うつ病に特徴的な症状には以下のようなものがあります。
- 過食・体重増加、炭水化物飢餓(甘い物などが食べたくなる)
- 過眠(睡眠の長時間化・過度な日中の眠気)
- 極度の疲労・倦怠感
- 社会からの離脱(冬眠のような気分)
秋うつの治療
秋うつ(季節性うつ病)も通常のうつ病に準じた治療を行います。
うつ病治療には以下のようなものがあります。
- 休養・環境調整:《休養》はとにかく“心”を休ませること、《環境調整》はストレスフルな環境をストレスの少ない環境に修正することです。
- 薬物療法:《抗うつ薬》を中心とした治療法です。
- 精神療法・心理療法:主に心理学的介入によって、患者個人が抱える問題の軽減・解消を目指す治療法で、多くの場合は他の治療法と組み合わせて用いられます。
- 電気けいれん療法(ECT):頭部への通電による人為的なけいれん発作で症状改善を図る治療法です。非常に高い効果を期待できますが、記憶障害を起こす可能性があるなど強い副作用もあるため、緊急性が高い場合や、重度のうつ病に対して用いられます。
- TMS治療(経頭蓋磁気刺激治療):磁気による誘導電流で脳を刺激してうつ症状の改善を図る治療法です。副作用がほとんどありません。
秋冬発症の季節性うつ病の治療では《高照度光療法》もよく用いられます。《高照度光療法》は、一般的には早朝に高照度の光を浴びるという治療法です。照射は30分~2時間、網膜にしっかり光が到達する必要があります。必ず医師の指導を受けて治療してください。
秋うつへの対処
ライフスタイルの改善は、秋うつの症状を緩和し、生活しやすくすることに役立ちます。改善方法としては、例えば以下のようなものがあります。
- 日光を浴びる:できる限りたくさんの自然光を浴びてください。日中に散歩する、窓際に座るなど、機会を見つけて太陽光を浴びるようにしましょう。ライフスタイルや仕事の都合で日光を浴びることが難しい場合は、人口光を浴びる《高照度光療法》もあります。
- 規則正しい生活:規則正しい生活の基本は、毎日同じ時間に就寝・起床することです。特に起床時間は非常に重要です。また、目覚めたらまず朝日を浴びるようにしましょう。
- 健康的な食事:決まった時間に栄養バランスの良い食事をとりましょう。秋冬型の季節性うつ病では炭水化物(特に甘い物)が無性に食べたくなります。カロリーの高い甘味(ケーキなど)よりも、梨・柿・ブドウなどの季節の果物をとりましょう。セロトニンの材料になるトリプトファンを含んだ食べ物(大豆・牛乳・卵・魚・肉など)もしっかりとるようにしましょう。もちろん、他の栄養素も十分にとる必要があります。
- 適度な運動:十分に身体を動かしましょう。屋内よりも日中に外での活動がさらに良いです。秋冬型の季節性うつ病は過食の傾向が強く体重増加を招きやすいため、なおのこと運動は重要です。
- ストレス管理:ストレスを定期的に解消し、ストレスをためすぎないようにしましょう。
- 友人に会う:友人や家族と時間を共有しましょう。気分を改善し、社会的孤立を防ぐ素晴らしい方法です。
季節性うつ病は毎年同じころに発症するので、逆算して早めに対策できる可能性があります。
一年中、健康的に過ごすことができるならそれが理想的ですが、現実的には難しい場合もあるでしょう。発症時期が近づき、あるいは発症しているときは、意識して健康的に過ごすようにしましょう。
秋うつは受診すべき?
もし、気分が落ち込み、楽しんでいた趣味への関心を失い、睡眠や食欲に異常があるなど、日常生活に支障をきたしている場合は、つらい気持ちを我慢し続けるのではなく医療機関を受診してください。調子を崩すのが初めてではなく、毎年のように秋に生じているようなら、季節性うつ病の可能性が高くなります。
もし、「この程度で受診していいのかな?」と受診がためらわれるような場合は、セルフチェックなども試してください。
一般に、うつ病は治療開始が遅れるほど回復にも時間がかかるため、うつ病の改善には早期発見と早期治療が大切です。時間の経過はうつ病を深刻化させる要因になります。心配が強いようなら、チェックの結果に関係なく医療機関にご相談ください。もし、うつ病などの疾患が発症していなくても、あなたの心配が1つ解消されるわけですから、無駄足ではありません。
まとめ
秋は一般的に過ごしやすい季節ですが、新学期や転勤など環境変化やイベントも多く、ストレス過剰になる可能性があります。うつ病の原因はストレスに限らないものの、ストレスがうつ病を発症させるリスクであることは疑いようがありません。
寒暖差、気圧の乱高下、アレルギー、日照量の減少など、秋にもストレス源は数多くあります。
《季節性うつ病(季節性感情障害)》は、主に晩秋から初冬にかけて発症し、春ごろに回復するというサイクルを繰り返すうつ病です。秋に発症するうつ病の全てが季節性うつ病とは限りませんが、季節性の有無に関係なく、うつ病は治療が必要な疾患です。季節性うつ病の治療は通常のうつ病治療に準じますが、高照度の光を浴びる《高照度光療法》も行われます。
日光を浴びる、規則正しい生活を送る、健康的な食事を取る、適度に運動するなどのライフスタイルの改善は、秋うつの症状を緩和できる可能性があります。
気分の落ち込み、趣味や活動への興味を失う、睡眠や食欲・体重に異変が出るなどの症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
品川メンタルクリニックはうつ病かどうかが分かる「光トポグラフィー検査」や薬を使わない新たなうつ病治療「磁気刺激治療(TMS)」を行っております。
うつ病の状態が悪化する前に、ぜひお気軽にご相談ください。
関連する記事
-
精神医学と心理学
冬に気分が落ち込む「冬季うつ」の症状・原因と対策
《冬季うつ(季節性感情障害)》は、秋から冬にかけて発症する季節性のうつ病です。繰り返し冬に発症することが特徴的で、過食と体重増加、過眠、社会機能や活動の低下など症状が目立ちます。冬季うつの症状・原因・対処法などについて解説します。
-
精神医学と心理学
秋のメンタル不調は9月病かもしれない
《9月病(九月病)》とは、お盆休みや夏休みが終わった9月に心身に現れる不調(ストレス症状)の総称で、その実体は《適応障害》や《うつ病》などである可能性があります。9月病の症状・原因・予防や対処法などについて解説します。
-
精神医学と心理学
非定型うつ病の特徴と7つの症状
《非定型うつ病》は、世間の人の《うつ病》の一般的なイメージからかけ離れた症状をもつことから、仮病を疑われたり、怠けているだけではと誤解されたりしがちなうつ病です。この記事では主に従来のうつ病との違いに焦点を置き、非定型うつ病の特徴や症状などを解説します。
-
精神医学と心理学
心と身体の不調のサイン、それはうつ病の初期症状かも
夜中に何度も目覚めたり、どうしようもない悲しみやむなしさに襲われたり、身体に痛みを感じたり、わけもなく涙が出たり──これらの症状は、うつ病の兆候(サイン)かもしれません。うつ病のサインとなる、初期に現れやすい症状と対処法を解説します。
-
精神医学と心理学
うつ病の代表的な治療法
うつ病は活発に研究され、近年では、うつ病患者の脳に機能異常が生じていることが分かってきています。治療方法も盛んに研究されており、《薬物治療》《精神療法》《経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)》などいろいろな治療法があります。この記事では、うつ病の代表的な治療方法について解説します。
-
精神医学と心理学
寝ても寝ても眠い「過眠」は、うつ病と関係する?
「日中の過度な眠気」「睡眠時間の延長」などの《過眠》は、集中力の低下やイライラ感、注意散漫などをまねき、事故や労災などを引き起こしかねない、うつ病でもよくみられる症状です。《日中の過度な眠気》を中心に、《過眠》の影響・原因や対処法などについて解説します。
- 更新
ご相談や初診のご予約はお気軽に
-
うつ病の診断チェック
うつ病の診断チェック(セルフチェック)をスマホやPCから簡単に行えます。
-
WEB初診予約初診診察料は無料
光トポグラフィー検査・QEEG 検査・TMS治療・親子のための受験うつ相談 などの予約を 24 時間受け付けております。